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【弁護士に聞く】ウィズコロナ、アフターコロナの旅行手配の注意点

海外旅行における難しさ

 とは言え、内容を読んでいただけば国内旅行については、ガイドラインを遵守することは容易だが、海外旅行については、なかなか難しい。

 国内旅行における従業員と参加旅行者の感染予防対策は、ほぼ現在社会的に行われていることと重なるし、旅行中に発熱等感染疑いの旅行者が出た場合にも、医療的対応は容易で、その程度によっては離団させ、必要に応じて旅行代金の精算をすればすむ。ところが、海外旅行の場合には、同ガイドラインに基づき策定された「海外旅行における運用手引書」を守らなければならないとされている。

 その手引書の「デスティネーション選定に関する原則」では「日本国政府の方針に加え、現地の新型コロナウイルスの感染状況(ワクチン接種率・死亡者数・新規感染者数など)、現地医療体制、ロックダウン等行動規制の有無、デスティネーションのガイドライン・感染防止対策を基準とすること」とあるが、実務的な基準にはなりえないし、「デスティネーションのガイドライン・感染防止対策が国・地域によって違いがあることが考えられるが、『感染しない、させない』ための対策が取られているかという点を基準とし、特にレストランやホテル、乗り物の感染症対策が十分であるかを確認すること。(換気、手指消毒、ソーシャルディスタンスの徹底など)」とあり、海外の規制緩和に向けた報道を見る限りは、遵守は困難と言わざるを得ない。

 しかし、救いは信義則で、旅行者の信頼を考えれば、郷に入っては郷に従えで、現地の感染状況と社会的対応の詳細に関する情報を提供し、旅行者自身で守らなければならない感染防止策(密集・密接の状況下でのマスクの確実な着用、こまめな手洗い・手指消毒など徹底)をお願いし、旅行中の感染への対応策として、お客様に現地医療機関と多く提携し、新型コロナウイルス感染症に対する十分な補償が組み込まれた海外旅行保険の申し込みを強く推奨しておけば(対応策はいずれも手引書記載)、安全確保義務は履行されていると裁判所は判断してくれるだろう。


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三浦雅生 弁護士
75年司法試験合格。76年明治大学法学部卒業。78年東京弁護士会に弁護士登録。91年に社団法人日本旅行業協会(JATA)「90年代の旅行業法制を考える会」、92年に運輸省「旅行業務適正化対策研究会」、93年に運輸省「旅行業問題研究会」、02年に国土交通省「旅行業法等検討懇談会」の各委員を歴任。15年2月観光庁「OTAガイドライン策定検討委員会」委員、同年11月国土交通省・厚生労働省「「民泊サービス」のあり方に関する検討会」委員、16年1月国土交通省「軽井沢バス事故対策検討委員会」委員、同年10月観光庁「新たな時代の旅行業法制に関する検討会」委員、17年6月新宿区民泊問題対策検討会議副議長、世田谷区民泊検討委員会委員長に各就任。