【弁護士に聞く】ウィズコロナ、アフターコロナの旅行手配の注意点

 欧米をはじめとしてリゾート地も、新型コロナによる入国制限を緩和し、国内の行動制限もなくし、コロナ禍前の経済活動に戻そうとしている。日本は情けないことに半鎖国状態を続け、国内も科学的議論に基づかない、医療逼迫という制度的原因によってマンボウを繰り返している。

 7月の参院選までは超安全運転に徹している岸田政権も、それを過ぎれば欧米に倣うだろう。そうなれば、今まで抑えられていただけに旅行への需要は爆発するかも知れない(ロシア・ウクライナ戦争で海外旅行需要は先行き不透明になってはいるが)。その際に注意しなければならないのは、新型コロナが単なる風邪の一種になった訳ではないので、旅行会社が安全確保義務をどう履行するかだ。

 「安全確保義務」とは判例上認められたもので、旅行会社には旅行契約に付随する信義則上の義務として旅行者の生命、身体及び財産の安全を確保する義務があるとするものだ。根拠は信義則とあるが、信義則とは民法第1条2項の「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」とある信義誠実の原則を指している。この規定を根拠に裁判所は、旅行契約に限らず古くから労働契約等について、「安全配慮義務」という表現で信義則上の義務を認めてきたもので、旅行契約に関しては「安全確保義務」という表現を使っているが、両者は同じものだ。

 しかし、いくらこの規定をマントラの如く復唱しても、判例の言うような義務内容は読み取れないだろう。信義則は、裁判所が具体的案件につき判決を下す際に、結果的妥当性を図るための新たなルールを作る魔法の言葉として使ってきたものと言える。ざっくり言ってしまえば、契約当事者は相互に信頼関係で結ばれていることから、相手の信頼を裏切らないように行動しなければならないという意味である。

旅行業における新型コロナウイルス対応ガイドラインの重要性

 そうした観点から、旅行会社の安全確保義務の中身を検討すれば、「旅行業における新型コロナウイルス対応ガイドライン」(最新版は第3版)が重要な役割を果たす。これは、政府の要請に基づき、産業界が各産業に応じた形で新型コロナウイルス感染予防策のガイドラインを定めたもので、上記ガイドラインもANTA(全国旅行業協会)とJATA(日本旅行業協会)の共同制作である。この内容は、成り立ちの経緯からして、一種の社会的コンセンサスを示しているものとして、その命ずることに従っている限りは、旅行者の信頼にも応えていることになるので、信義則上の義務としては十分履行していると言える。

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