JNTOが訪日フォーラム、共通課題は「人手不足」、主要国の動向解説も
日本政府観光局(JNTO)は9月6日・7日の2日間、都内で「第26回JNTOインバウンド旅行振興フォーラム」を開催した。フォーラムには海外26ヶ所にある全ての海外事務所長と海外事務所設置準備室長が参加。政府の観光立国推進基本計画に基づきJNTOが6月末に発表した2025年度までの「訪日マーケティング戦略」を踏まえ、それぞれが担当国・地域の訪日傾向やターゲット層、プロモーション方針などを説明した。今回はそんなフォーラムの内容を、注目市場にフォーカスをあてて紹介する。
各市場の共通課題は人手・情報不足
ほぼすべての市場で課題として挙がったのが、日本サイドの圧倒的な「人手不足」を指摘する声だ。昨年10月の国の水際対策緩和をきっかけにどの市場も回復基調にあるが、日本の訪日旅行会社やツアーオペレーターが外国旅行会社のリクエストに応じきれない状況が続いている。発表者からは「リクエストを出しても見積もりがあがってこない場合があり、全ての需要を拾いきれていない」(米国)「スピーディな反応を好むので、せめて『回答に時間がかかる』という連絡が欲しい」(台湾)といった意見が出された。
加えて航空会社、宿泊施設、料飲施設に関しても、コロナの影響で大型団体の受け入れ対応が厳しくなってきているとし、大人数を受入できる便や施設の情報を求める声もあった。加えてフランスやスペイン、ドイツなどロングホールの市場を中心に通訳ガイド不足についても懸念の声が上がった。
一方で送り手側の現地旅行会社もコロナの影響で人手不足に陥っており、「募集型旅行は手間かかるのでマンパワー的に無理。新ルート開拓も余裕がない」(タイ)「航空会社の機材・人材不足もある」(フィリピン)といった声もあった。
また、航空路線については地方路線の回復を望む声が多くあがっており、JNTOとしても地方空港への航空便の誘致に注力していく方針。11月には空港のある自治体や空港事業者向けに航空便誘致に向けたセミナーを開催するという。
【市場別の傾向解説】
【中国(北京・上海・広州・成都)】団体旅行解禁もALPS処理水問題の影響に懸念
8月10日に突然日本への団体旅行が解禁された中国。訪日外客数は23年1月~8月の累計で80.7%減の127万2200人、8月単月で63.6%減の36万4100人となっており、回復基調にはあるが思ったほど戻ってきていないのが現状だ。
この要因として成都事務所長の佐藤仁氏は、ALPS処理水の海洋放出に対する中国側の反発を指摘。旅行商品の一部キャンセルや、OTAでの日本商品の検索数の減少、旅行会社による訪日旅行商品の売り控えも出てきているという。
佐藤氏は「動向は予断を許さず状況の把握に努めていく」としつつも、「尖閣諸島問題のときの日本商品排斥運動みたいな流れにはなっていない」とコメント。今後は過剰反応やSNSでのデマ拡散などに対し、大使館等と連携して安全性に関する情報発信を継続していくとした。
中国人の旅行傾向としては、JNTOによれば国内旅行で体験に参加して夢中になる「没入型観光」や、若者を中心にスーパー銭湯などでゆっくり楽しむ「寝そべり式旅游」、色鮮やかな旅行先の写真をSNSに投稿する「ドーパミン旅行」が流行しているという。
加えてコロナ化で中国人のスマートフォンやSNS依存が進んだこともあり、若者を中心にWeiboやWeixin(WeChat)、RED、DouyinといったSNSや動画アプリで旅行情報を収集し、旅行先での写真をSNSに投稿する傾向が強い。
佐藤氏は「こうしたプラットフォームでいかに日本の観光情報を流通・拡散させていくかが中国人を呼び込むのの最大のポイント」と強調。旅行会社の販路もライブ配信を利用するなど多様化していくとし、そうした変化に対応したプロモーションの必要性も示唆した。
北京事務所長の茶谷晋太郎氏はプラス要因として日中間の航空便の回復を指摘。今年3月の航空便の制限解除後は回復しつつあり、7月末時点ではコロナ前の35%まで復便したところ。8月は40%強まで回復し、航空券の価格高騰も落ち着きつつあるという。佐藤氏も「さらに増便・復便が進んで航空運賃が下がれば確実に回復が見込まれる」としたうえで、ゴールデンルートが先行回復し、地方は航空便が復活次第との考えを述べた。