JNTOが訪日フォーラム、共通課題は「人手不足」、主要国の動向解説も
【米国市場】富裕層・クルーズを重点的にアピール
3月以降19年を上回る訪日外客数の米国は、カナダ・メキシコと共に「米州市場」としてプレゼンテーションを実施した。同市場は19年データでも3市場でロングホール市場の約半分を占める大規模な市場で、23年1月~8月の累計訪日外客数では米国のみで13.9%増の130万9400人、3市場全てで13.0%増の162万1500人となった。
米州市場はトータル5億500万人という人口規模、世界のGDP総額の約3割を占め、消費マインドは高い。滞在期間は10泊以上、1人当たりの旅行支出も18万円(※メキシコは未集計)となっており、高いポテンシャルのある市場だ。
また、各国の海外旅行者の動向をみると、米国は23年1月以降19年比を上回る数で推移しており、6月は9.5%増の754万1000人。カナダも1月~5月の累計で9.1%減の1311万5000人まで回復。メキシコは1月~5月の累計で22年比9.6%増の563万6000人だったという。
日本路線については円安による訪日のしやすさがあるなか、航空便もコロナ前より多い米州地区19都市から週380便が運航(※グアム・ハワイ・サイパン以外)しており、アクセスの良さも魅力となっている。
プレゼンテーションでは市場共通の重点的な取り組みとして「富裕層旅行」「クルーズ」を説明。富裕層に対しては具体的な体験を打ち出すとともに、「人との対話」を重視する市場傾向から、人とどのようにかかわる体験なのかを説明できる素材を準備してプロモーションを実施しているという。
一方クルーズについては3市場連携でイベントなどに参加してアプローチを続けているところ。特に米国では日本に寄港するクルーズが好調で、2024年は完売した船社もあるという。
このほか、セミナーでは3国事務所が各市場のターゲットを紹介。米国は4パターンで世帯可処分所得ごとの区分けで訪日未経験者・リピーター層それぞれを設定。体験を重視し、アドベンチャートラベルへの取り組みも強化していく考えだ。カナダは最大ボリュームとなる30~40代の訪日未経験者を中心に3つのターゲットを設定。暮らしや体験、交流がキーワードになるとした。メキシコは世帯可処分所得ごとに3つのターゲットを設定。傾向としては「家族」を重視し、親族が大人数で旅行するケースも紹介した。
【インド】複雑なバックグラウンドを持つ新市場
国連経済社会局の推計によれば、インドは今年4月に総人口が約14億2577万人となり、中国を抜いて世界1位になった。そんなインドからの23年1月~8月の累計訪日外客数は19年比11.9%減の10万5300人。まだ規模は小さいが、今後注目されるデスティネーションだ。訪日にはビザが必要なため、旅行会社も絡みやすい。
デリー事務所長の文野領氏はインドは人種的にも宗教的にも複雑で多様な文化を有していることに触れ、「どのターゲットに絞るかを考えて、戦略を組んだ方がいい」と訴えた。例えば宗教一つとってもヒンドゥー教徒が80%、イスラム教徒が14%、キリスト教徒が2.3%、シク教徒が1.7%、仏教徒が0.7%にジャイナ教徒が0.4%。インド=ヒンドゥー教徒のイメージが強いが、役人層で出張が多いのはシク教徒、超富裕層旅行ならジャイナ教徒と割合が低い層の旅行も多い。特にジャイナ教は食事制限が厳しいことから食材やメイドとともに大人数で旅行するという。
インド人の人気の海外旅行先はUAE、米国など。保守的でインド人のコミュニティが多い場所に行く傾向が高く、文野氏によれば「インド人がやっているインドカレー屋」など、インド人フレンドリーな店があることもポイント。訪日の基本ルートはゴールデンルートで、春と秋が旅行ピークだ。桜については「葉桜でもいいから見たい」という需要あるという。原爆に関する言及があることから広島も人気。文野氏は「広島から足を延ばし、岡山や香川に行ってもらいたい」と話すとともに、新幹線を好む傾向にあるので、東北や九州についても可能性があるとした。
このほか、同氏はフォーラム内の個別商談会で「インド市場は重要だけど何からすればいいのか」という質問がたくさんあった一方、インドの旅行会社からも同様の質問が多く来ていることを説明。お互いのコミュニケーションをしっかりとる必要性を告げるとともに「インドはフェイストゥフェイスの営業スタイルがメインでメールは返事をしない」と解説し、「アポイントを取ってWhatsAppや電話、オンラインミーティングで丁寧なコミュニケーションを」と提案した。
【北欧市場】ストックホルム事務所開設を準備
最後にご紹介するのは、今年度からJNTOが重点市場化した北欧地域(スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランド)。新規訪日層の獲得をはかり、若者のFIT層・30・40代の家族、50代以上という3つのターゲットを設定している。今回はストックホルム事務所設置準備室長の若林香名氏が北欧市場の概況について説明した。
若林氏は北欧市場について、健康や環境への関心の高さ、休暇制度が充実し長期休暇が取りやすいことを指摘。日本の自然を楽しめるトレッキングやサイクリングや、スキーへのニーズもあるという。旅行時期は冬の避寒目的で1月・2月が最も多く、滞在日数は平均11.7日。市場規模としては4ヶ国で年間4400万人が海外旅行をし、1人あたりの消費額はフランス・ドイツ・英国並みとした。
ロングホールの海外旅行先1位は米国だが、興味のある国は2020年の調査で日本が1位になっている。若林氏は「滞在日数も長く所得水準も高い。高付加価値旅行の推進に資する有望な市場」と強調。その上で「北欧言語でプロモーションをしている自治体は少ない」と課題をあげ、各国の言葉で情報を発信することで特別感を感じてもらい、訪日に結び付けることを提案した。
なお、北欧市場からの訪日客数は2019年が14万人で、23年1月~8月の累計は19年比23.5%減の7万2000人。日本からの直行便としては羽田/コペンハーゲン線、羽田・成田/ヘルシンキ線が運航されている。