ホームエージェント型代理業は人材不足の救世主?導入例など紹介-JATA経営フォーラム
旅行業OBOGやリタイア層の知見を活用
大手旅行会社の取り組みに期待、決済などの課題解決へ
アルパインツアーがホームエージェント型代理業を導入、現状や課題を紹介
パネルディスカッションでは、実際にホームエージェント型旅行業者代理業者と契約しているアルパインツアーサービス代表取締役社長の芹澤健一氏が、自身の経験と今後の課題を語った。同社は海外を中心に登山やトレッキング、ハイキングなどのSIT旅行を提供しており、コロナ前は売上の9割以上が海外旅行だった。コロナ禍当初は国の制度などを活用して事業規模の維持を試みたものの、長引くコロナ禍で事業規模を縮小し、雇用を調整し店舗を閉鎖。コロナ禍2年目から国内旅行が徐々に動き出し、少ない人数で対応しつつも仕事が増えてくるなか、以前のスタッフと代理業者契約を締結した。
同社では現在8名の代理業者と契約中。代理業者は原則的に自宅がオフィスだが、数人が共同でオフィスを借りるケースもあるという。芹澤氏は「昨夏から海外ツアーをスタートさせ、現状としてはさらに人材が必要。業務を拡大するなか、ホームエージェント型旅行業者代理業で具体的にネットワークの拡大ができる」とメリットを強調。「今はこの方法しか思いつかないと同時に、ホームエージェント型旅行業者代理業で事業形態を拡大していくことが最も適したやり方」と強調した。今後については「雇用告知を出せば多くの人が来ると期待しているが今は対応できないため、内輪で代理業による旅行業務のシステムを拡大していく」という。
ただし、ホームエージェント型旅行業者代理業には課題もある。芹澤氏は、代理業者の個性やスキル、経験などを踏まえ、何を任せどう働いてもらうかを明確にする必要があるとし、「所属旅行会社が業務をきちんとコントロールする力が問われる。こういうシステムで業務を構築するという明確な意図と目的をはっきり定めていないと、代理業者の配備は難しいと実感している」と語った。また、JATA事務局が課題として挙げた旅行代金の収受については、「出た収益を会社と代理業者が分配する形が基本」としつつ、混乱を避けるため旅行者から直接支払ってもらっていることを紹介した。
さらに同氏は、正社員ではない代理業者と顧客リストや企画・写真などの知的財産ツールの共有することも課題であるとし、「所属旅行会社に契約するとき条件を明確に提示できる能力がなければならず、すごく苦労した」とコメント。「JATAが契約条件のひな型などを作ると分かりやすいのでは」と提案した。
これに対しモデレーターで風の旅行社代表取締役の原優二氏は、JATAではひな型の作成を進めているが収益の分配方法といった具体面までを踏み込めていないことを説明。風の旅行社でも2名の代理業者を採用しているが「よく知る元スタッフなので信頼関係を作れているが、契約書だけでは難しい」とし、「経験値なので、経験を積んで皆が表に出して共有する場があれば」と話した。
ホームエージェント型代理業の拡大に向け、旅行会社の意識改革を
パネルディスカッションでは、パネリストからホームエージェント型旅行業者代理業をいかに普及させるかという観点で議論が行われた。神奈川大学国際日本学部教授の島川崇氏は、「(旅行業界に)戻るのを諦めている人がたくさんいるのではないか。業界を伸ばすためにはノウハウや顧客を持ったそうした人たちこそ必要」としたうえで、代理業を普及させるには導入側の所属旅行会社の意識改革が必要とした。
同氏は参考になる事例として家電業界を紹介。大手量販店やインターネット販売があるなか、小さな町の電気屋さんが依然として力を持っていることを説明し、その理由としてサプライヤー側が提供する商品を使い分けていることを説明した。同氏によれば、商品に使われる鉄板をサプライヤーが差別化しているといい、量販店の場合は価格競争と商品の買い替えを前提に、コスト削減と廃棄しやすいよう薄くて軽い鉄板を使用。一方で町の電気屋さんの場合は修理して長く使うことを前提に、暑い鉄板を使用した商品を提供しているという。島川氏は「旅行業界でも所属旅行会社側が流通として、大手やOTA、ダイナミックパッケージと違う形で出していけるような枠組みを作っていければ」と提案した。
さらに島川氏は、所属旅行会社に支払う補償金について言及。リスク回避のために所属旅行会社が消費者から直接旅行代金を収受する形を改めて提案するとともに「旅行業界はリスク回避の傾向が強いが、業界発展のためには誰かがリスクを背負う必要もある。勇気をもってチャレンジしてくれる会社が出ることを期待したい」と話した。
また、同氏は旅行会社がダイナミックパッケージに注力したことで、パンフレット時代には売れていたオプショナルツアーの売上が減少傾向にある旨を説明。「旅行会社は自分がお客様に売るだけでなく、デスティネーションを開発していく機能もあるはず」としたうえで、「旅行会社の矜持である、旅をストーリーとして作り出すことがなくなってきた今、代理業の人々に旅行の魅力を伝えていったほしい」と語った。