独自マーケット拓いた旅行会社の事例-2000万人時代への課題
ニーズへの対応で「趣味の延長で海外旅行へ」
▽アルパインツアーサービスのケース
アルパインツアーサービスは1969年創業の登山・トレッキング専門旅行会社だ。代表取締役会長・CEOの黒川惠氏は日本の登山人口を400万人から500万人と想定。このうち、旅行会社が取り扱う登山・トレッキングツアーは、国内は2004年から07年にかけて約24万人から約30万人の推移だ。海外ツアーは年間1万5000人から3万人程度と推察。「決して大きくはないが、非常に中身の濃いマーケット」と、顧客層の手堅さをアピールする。
ただし、「お客様を超える実力や見識がなければ、市場拡大・需要創造には至らない」と参入の厳しさも強調し、それが強みとなっている。反面、カントリーリスクや予見できない自然環境への対応が必要になる可能性といったマイナス面もある。また、山間部のロッジなど扱う商材が全額前払い、キャンセル料100%のフルプリペイメントが標準であることも「ニッチ市場で痛感すること」と話す。
だたし、黒川氏は「顧客は奪いあう、分けあうのではなく、創らなくてはならない」と断言。同社は「世界初」の旅行にも挑戦してきた。例えば、中国・四川省の四姑娘山へのトレッキングツアーを実施したのは、同社が世界で初めてだ。黒川氏は「海外の山旅に案内することは使命であると考えている」と、ニッチ市場に取り組む姿勢を見せた。
▽朝日サンツアーズのケース
朝日サンツアーズの顧客層はシニア層で欧州旅行の多いリピーターだ。テーマのあるゆとりの旅が特徴で、顧客層の平均年齢は66.9歳。リピーター率は7割を占める。朝日旅行・執行役員海外旅行担当・東京支店海外旅行部長の鹿野真澄氏によると、テーマ性の高いツアーでは「企画にこだわりを持ち、他社にないもの、競争の土台にのらないもの、リピート化」などを念頭に旅作りをしている。
顧客のシニア層は好奇心が旺盛で知識欲があり、旅に目的を持つ傾向が強く、それに合致する内容を企画。「絵の旅」のテーマでは、「通常のツアーでは観賞時間が物足りない」というニーズに応じ、例えばエルミタージュ美術館で4日間、部門別の学芸員の解説付きツアーを企画。さらに教会などを巡り、建築や彫刻、壁画を見る「美術館以外の宗教画の旅」のテーマも用意した。「現場に行かなくては絶対に見られず、個人では行きにくい山間深い場所にあるなど、ツアーで行く必然性がある」とメリットを説明する。
集客数は1テーマで年間約200名から約500名、テーマ性のある旅全体で同社の海外旅行の約4分の1となる約2000名となっており「個性的な旅としてはちょうどいいサイズ。安定した集客がある」と評価。今後も「旅の深みを追及し、特定市場のオンリーワンをめざしていく」と話す。