訪日旅行再開に向け、今旅行会社がやるべきことは?途中離脱対策やSDGs対応など考える-JATA経営フォーラムより

PCR陽性者の途中キャンセル対応など、旅行者フォローの仕組みづくりを
富裕層旅行やSDGs、MICE、スマートトラベルにも注目

 日本旅行業協会(JATA)が3月31日まで実施していた「JATA経営フォーラム2022」。これまで基調講演や分科会を4回にわたり紹介してきたが、最終回の今回は訪日旅行をテーマにした分科会C「ウイズ・ポストコロナの訪日旅行に向けて」を取り上げる。3月から国の水際対策の規制が緩和され、徐々に国際往来が復活しつつあるなか、分科会では将来の訪日旅行再開を見据え、「コロナ禍における訪日と世界の観光市場」「ウィズ・ポスコロナにおける訪日インバウンド復活への課題と対処方法」の2つのテーマで議論がなされた。なお、パネルディスカッションの撮影は2月8日に実施されている。

分科会Cの様子
【パネリスト】
日本政府観光局(JNTO) 企画総室長 奈良裕信氏
東武トップツアーズ ソーシャルイノベーション推進部顧問 磯康彦氏
(JATA訪日旅行推進委員会『ウィズ・ポストコロナの訪日旅行に向けたワーキンググループ』座長)
日本旅行 取締役兼常務執行役員グローバル戦略推進本部長 喜田康之氏
【モデレーター】
JTBグローバルマーケティング&トラベル 代表取締役社長執行役員/太平洋アジア観光協会(PATA)日本支部会長 黒澤信也氏
(JATA訪日旅行推進委員会副委員長)

厳しい水際対策の緩和を要望、感染症法の分類のレベル引き下げも

モデレーターの黒澤氏

 パネルディスカッションではまず、モデレーターでJATA訪日旅行推進委員会副委員長を務めるJTBグローバルマーケティング&トラベルの黒澤信也氏が「コロナ禍における訪日と世界の観光市場」をテーマに訪日旅行の現状について説明した。訪日外国人旅行者数は2019年に過去最高の3188万人だったが、21年は水際対策を強化する「鎖国」などで24万6000人まで大きく減少している。

 日本の厳しい水際措置については、東武トップツアーズの磯康彦氏が、空港におけるPCR検査体制に関する問題点を指摘。仮に外国人の入国制限が緩和されたとしても、昨年11月のPCR検査体制そのままであれば1日5000名、年間182万5000人しか入国できないことを説明した上で「ビジネス客や留学生、帰国する日本人も入れた数。この数字では国際交流の復活は難しいのではないか。PCR検査方法の見直しを考えてもらいたい」と要望した。

 日本旅行の喜田康之氏は、昨年12月に観光庁が訪日外国人旅行者の受入再開に向けた実証実験としてモニターツアーを計画していたことに触れ、その際PCR検査を出国前72時間以内と空港到着時に2度行い、加えて4日間の隔離が必要だったことを紹介。PCR検査をどちらか片方にするとともに、「ワクチンパスポートを持っている前提で入国後の隔離期間もない方がいい」と話した。加えて今後のポストコロナを見越し、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の分類について、現在のSARSなどと同じ2類からインフルエンザ並みの5類へと引き下げることを提案した。

外国人は訪日に意欲、受入側の心理的障壁が課題

 続いて黒澤氏はいくつかの調査を引用しながら、コロナ禍における外国人旅行者の訪日意欲について解説。2020年に日本政策投資銀行と日本交通行公社がアジア・欧米豪の居住者に取ったアンケートによれば、コロナ終息後の訪日旅行に期待したいことを尋ねた質問では、アジア・欧米豪ともに衛生面による配慮、清潔さ、消毒などのウイルス対策全般の継続がトップとなった。海外旅行をしたい国・地域を聞いた質問では日本がトップで、黒澤氏は「需要は間違いなくたくさんあり、今は日本に来れないだけというのが実態では」との考えを示した。

 また、黒澤氏は観光庁が12月に計画していた、インバウンド受入実証事業として実施する訪日モニターツアーについて説明。訪日外国人旅行者の段階的な受入を進めるためのもので、訪日外国人旅行者と受入地域双方の安心・安全の確保のため、感染が落ち着いた国・地域から、防疫措置を徹底し一般客との接触を回避した上で、ビジネストラックに準じた小規模分散型パッケージツアーを12月に実施する計画だったが、オミクロン株の拡大によって実現には至っていないという。

 同氏はモニターツアーの準備をする中で感じたこととして、受入側に「日本在住者目線で、いかに海外からコロナを持ち込まないようにして国内の感染を広げないようにするか」という見方が強いことを説明。「インバウンド解禁はいかに無事に訪日外客を守るかがメイン。この2つの考え方をうまく調和しないとインバウンドは再開できない」と強調し、日本在住者を守るために外国人を受け入れたくないという心理的障壁をいかに取り除くかが自治体・住民レベルで重要とした。

 こうした課題に対し、磯氏も「心理障壁は非常に大きいものがあり、それを少しでも軽減する必要がある」と語り、定期的なアンケート調査の実施などで、受入側の理解が進んでいるかを「見える化」する必要があるとした。ちなみにJATAによれば、日本観光振興協会と実施した、国内の訪日外国人旅行者受入事業者の意識調査で、受入側が求める旅行スタイルは個人・団体共に「旅程管理型旅行」だったという。

 このほか、喜田氏は「地元住民の感情を考慮して慎重な対応を崩さなかった自治体が多かったが、積極的なところもあった」と振り返り、「前向きにチャレンジングに取り組んでくれているエリアを誘客の意味で応援したい」と意気込みを示した。また、モニターツアーに際し、中央と地方、地方間の連携がスムーズにいかなかったことを課題としてあげ、「旅行会社が両者を機動的につなぐ役割として旅行会社が役立てると実感した」と語った。