訪日旅行再開に向け、今旅行会社がやるべきことは?途中離脱対策やSDGs対応など考える-JATA経営フォーラムより

PCR陽性者の途中キャンセル対応など、旅行者フォローの仕組みづくりを
富裕層旅行やSDGs、MICE、スマートトラベルにも注目

旅行会社のサステイナブルツーリズムへの取り組みの現状は?

 世界的にサステイナブルツーリズムへの注目が集まる一方、日本の旅行業界における取り組みはそこまで進んでいないのが現状だ。黒澤氏はJTB総合研究所の調査結果を引用し、SDGsの取り組み状況として宿泊業は43.3%が取り組んでいるがが、旅行業はわずか16.0%にとどまっていることを紹介。他産業に比べ動きが遅れていること、欧州や豪州などのSDGsに関心度が高い訪日旅行者から戻る可能性が高いことなどから、今後旅行業でも取り組んでいく必要性を強く訴えた。

 その上で、黒澤氏は、サステイナブルツーリズムに関する取り組みをアピールすることが重要であるとした。Booking.comの調査によれば、日本人旅行者のマインドとして、サステイナブルツーリズムへの意識はしているものの、宿泊施設を選ぶ時は気にしてないことから、宿泊施設の取り組みが日本人旅行者に十分伝わっていない可能性を指摘。「海外の関心の高い人に積極的にアピールし、共感をいかに創り上げるか誘客につながる。今後クローズアップしていくべき」と提案した。

日本旅行の喜田氏  また、パネルディスカッションでは喜田氏がJATAのサステナイブルツーリズムへの取り組みを紹介。JATAは2013年からツアーオペレーター品質認証制度(TQJ)を開始し、訪日旅行の安心・安全と品質向上に取り組んでいるが「サステイナブルツーリズムを3つ目の柱とするべく取り組み中」だという。具体的には、2023年から制度の更新基準の項目にSDGsへの取り組みを追加。現在44社いる認証会員会社の現状を知るためのアンケートも実施し、38社から回答があったという。

 喜田氏によれば、アンケートの結果、環境に配慮したペーパレス化には8割弱、多国籍社員の登用は約7割、日本で遅れがちな女性の役員・管理職への登用も約5割の会員がそれぞれ取り組んでいるという。一方、SDGs関連プロジェクトへの具体的な参画について尋ねた質問では、7割弱が「現時点で取り組んでいない」と回答しており、喜田氏は「ツアーオペレーターとしてSDGsへの取り組みがまだまだという実態が明らかになった。取り組みを進める出発点にしたい」と話した。

ニューノーマル時代の訪日観光、クリーンツーリズムやスマートトラベルなどへの対応を

 パネルディスカッションでは、黒澤氏が「ニューノーマル時代に適応した『持続可能な観光』への取り組み」についても言及し、取り組むべき5つのポイントを説明した。このうち1つ目は「欧米豪・富裕層の誘致による旅行消費額の拡大」で、これまで主流だった50代から60代で快適性やサービスの質にこだわる「クラシックラグジュアリー」に加え、近年は文化や独自性に重きを置き、「本物の体験」を求める20代、30代の「モダンラグジュアリー」が出てきており、彼らの誘客に取り組む必要性を指摘。2つ目の「観光政策における安全・清潔環境の創出(クリーンツーリズム)」については、光触媒を活用した抗ウイルス対策など、観光施設全般の安全性・清潔性の維持が重要になるとした。

 3つ目の「オーバーツーリズム・3密回避問題の解決に向けた地域誘客の推進」については、アドベンチャーツーリズムをはじめとしたテーマ型で3密を回避できる旅行形態が増えるよう取り組むことを推奨。4つ目の「MICEのハイブリッド開催によるMICEサステナビリティの推進」については、近年リアルとオンラインのハイブリット型MICEの増加により参加者のすそ野が広がることを指摘するとともに、「リアルを縮小させるか拡大させるかは、状況を見据えてどう取り組むかがポイント」と話した。5つ目は「ソサエティ5.0時代におけるスマートトラベルの推進」で、スマートトラベル、デジタルリモート、タッチレス決済やチェックインアウトの自動化などに取り組むべきとした。

 これに対し、奈良氏は観光業界の課題として、サステイナブルツーリズムやアドベンチャーツーリズムなどのコンテンツ不足、そうした需要に対応できる専門ガイドの不足、多様性・柔軟性のあるサービスの不足をあげた。特にサービス面では欧米で増加するビーガンを例に、飲食店の対応が追い付いていないことを指摘し、「定型と異なるサービスを柔軟に対応していく必要がある」と語った。

 最後に黒澤氏は、2030年の訪日外国人旅行者数6000万人の目標に触れ、「現状で一足飛びでは難しいのでは」とコメント。2025年の大阪万博を例に、「国際的なイベントを積極的に誘致して訪日インバウンドの起爆剤に変えていければ」との考えを示した。ただし、アフターコロナの初期段階においては、慎重に訪日外国人旅行者を受け入れる必要があるとし、まずは少人数の管理型ツアーで、富裕層を中心に受け入れを開始すると予想。「そういうことから質的向上、量的拡大へと、段階的にインバウンドが拡大できれば良いシナリオになるのではないか」と締めくくった。