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【弁護士に聞く】無断キャンセル、ノーショーへの対抗策

 宿泊施設や飲食店のサービスは、快適な気持ちを味わえる時間を売っている。無断キャンセル(ノーショー)されると、時間は過ぎ去ってしまうので、その損失をカバーする方法は原理的にない。そこで、無断キャンセルを防ぐための対抗策が必要となるのだが、有効策と言えるほどのものは未だない状況だ。

取消料等は回収困難

 無断キャンセルを防ぐには、イソップの教えに従えば、南風方式では、例えば3日前までにキャンセルの通知をしてくれれば次回の割引券を付与するといったキャンセル連絡のインセンティヴを与えることが考えられる。しかし、もともと無断でキャンセルしても平気な、あまり質の良くない客相手なので、インセンティヴによっては、インセンティヴ狙いの利用する気のない予約を誘発するだけで終わる危険がある。また、実際に予約どおりに利用してくれた良質のお客様との均衡の問題も考えなければならない。

 北風方式としては、無断キャンセルに対しては手痛い制裁(不利益)を与えることで、取消料を徴収することが考えられる。残念なことに、日本の司法制度では感覚的には100万円以下の債権の回収はコストが見合わないという欠陥がある。取消料は、任意に支払に応じてくれれば良いが、端から支払意思のない者には取り立てをしなければならないことになる。取消料債権は、多くて1人10万円程度なので、少額債権の回収のための裁判制度である支払督促か少額訴訟を利用することになる。いずれも書式は裁判所のホームページにアップされていて、弁護士からすれば、それほど面倒ではないと思うが、素人には面倒のようである。この手続で任意に支払に応じれば良いが、応じない場合には、予約者の財産の差押えをすることになる。これまた通常は予約者の職業も資産も全くわからない状況にあるので、調査が必要になる。こうした諸々の手続と費用を説明すると、大抵、クライアントは面倒なので、「先生、よろしくお願いします」となる。しかし、弁護士としても面倒なだけなので、報酬額としては最低ランクの10万程度はいただきたいという話になり、ここで債権回収は着手前に頓挫することが多い。

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