M&Aで宿泊・体験・交通へ拡大、羅針盤は何を目指すのか――佐々木代表に聞く成長戦略

交通領域への進出とM&A戦略

-キャブステーションとアウテックを子会社化し、交通領域に進出しました。狙いは何ですか。

佐々木 訪日旅行消費額の中で、私たちが従来手がけてきたツアーや着物レンタルはごく一部です。大きな領域は宿泊、飲食、ショッピング、交通です。日本の観光をリードしていくのであれば、消費額のカバー範囲を広げる必要があります。

 また、「旅の目的地」を広域に作っていく上で、交通は欠かせません。地域へ人を連れていくには、バスやタクシー、ハイヤーなどのネットワークが必要です。キャブステーション、アウテックがグループに加わったことで、宿泊、移動、体験をつなぐ体制を作りやすくなりました。

羅針盤の主な事業拡大・M&Aの流れ

時期 主な動き 事業上の意味
2022年12月 会社設立・事業取得
羅針盤の前身となるインバウンドコンソーシアムを設立。和心から着物レンタル事業を取得。
訪日客向けの和装体験・文化体験を取り込み、インバウンド向けコンテンツ事業の基盤を形成。
2023年4月 社名変更
社名を羅針盤に変更。
観光・インバウンド領域での事業拡大に向け、新体制としてのブランドを明確化。
2023年8月 合併
ノットワールドとの合併が完了。
訪日向けオプショナルツアー、地域プロデュース、メディア、ガイドコミュニティを取り込み、体験・地域支援領域を強化。
2023年10月 合併
エアトリステイとの合併が完了。宿泊管理事業を「COMPASS STAY」として展開。
宿泊領域を加え、訪日客の滞在拠点を担う機能を獲得。体験と宿泊を組み合わせた展開の土台に。
2023年12月 資金調達
約4億円の第三者割当増資を実施。
人材採用、プロダクト開発、M&Aを含む事業拡大に向けた体制を強化。
2024年7月 資金調達
約2.8億円の第三者割当増資を実施。
設備、ソフトウェア、採用、M&Aへの投資を進め、成長基盤を拡充。
2024年10月 事業取得
Hanaemyから着物レンタル事業等を取得。
麻布十番での着物レンタル事業を取り込み、きものレンタルwargoのサービス強化につなげる。
2025年4月 株式取得
Frontier&Coを完全子会社化。
日本酒、飲食、酒販、食文化体験の領域を取り込み、訪日客向けの文化・食コンテンツを拡充。
2025年6月 子会社化
TRAPOLを子会社化。
全国各地の体験コンテンツや旅行コンテンツ制作・運営機能を取り込み、地域プロデュースと体験造成を強化。
2025年7月 資産取得
Arch Bridalの資産を取得。
和装前撮り・フォトウェディングの資産やノウハウを取り込み、着物レンタルと撮影需要を組み合わせたサービスを強化。
2026年2月 資金調達・完全子会社化
約7.5億円の第三者割当増資を実施。キャブステーションとアウテックを完全子会社化。
交通領域に進出。宿泊、移動、体験をつなぎ、広域周遊や高付加価値旅行への対応力を高める。
2026年7月 事業取得
錦から着物レンタル事業を取得。
京都エリアで「ぎをん錦」が培ってきたノウハウを取り込み、インバウンド需要の大きい京都での和装体験事業を拡大。

※羅針盤の公式発表をもとに編集部作成。時期は発表日または実施日ベース。

-すでにシナジーは出始めていますか。

佐々木 アウテックの車両を使い、着物レンタルと組み合わせるようなコラボレーション商品の企画は動き始めています。ただ、大きな売上効果が出ている段階ではなく、これから徐々にシナジーを作っていくフェーズです。

-M&Aは今後も成長戦略の柱になりますか。

佐々木 M&Aは積極的に活用していきたいと考えています。羅針盤を立ち上げてから複数のM&Aを行ってきており、その知見は私たちの武器です。今後も既存事業の水平統合や垂直統合に加え、飲食や物販など新しい領域も、良い巡り合わせがあれば検討していきます。

 ただし、何でも買えばよいとは考えていません。買うのと自分たちで立ち上げるのではどちらがよいのか、買収後に私たちがバリューアップできるのかを見ています。例えば体験コンテンツは比較的参入障壁が低く、今利益が出ていても、運営しているキーマンがM&A後にいなくなった時に維持できるのかという問題があります。OTA上のアカウントに口コミが蓄積されていることには価値がありますが、オペレーションが属人的で、それを維持できないなら、1から作った方がよい場合もある。買収後に何が残るのか、同じ方向を向いて一緒に成長できるのかが大きな判断軸です。

旅行者ニーズと観光産業の課題

-訪日旅行者のニーズは「モノ消費」から「コト消費」へ変化していると言われます。現場ではどう見ていますか。

佐々木 モノ消費、コト消費という言い方は、少し難しいと感じています。物販がモノで、体験がコトなのかというと、そう単純ではありません。体験で作ったものをお土産として持ち帰る場合、それはモノなのかコトなのか。線引きは曖昧になっています。

 むしろ、旅行者の消費は二極化していると思います。スマートフォンやWi-Fi、AIの進化によって、コストを抑えようと思えばどんどん抑えられる。一方で、自分が価値を感じるものにはしっかりお金を払う。旅行者ごとに、節約する場所と使う場所のメリハリが強まっています。

-単価が上がっていると感じる領域はありますか。

佐々木 私たちが深く関わっている領域でいうと、ガイドツアーです。コロナ前はガイドだけで食べていける人はごくわずかでしたが、コロナ後はガイドだけで生計を立てられる人がかなり増えました。仕事の量が増え、単価も上がっていることが大きいと思います。

 飲食領域も非常に強いです。特に寿司店などは価格が大きく上がっています。席数が限られている人気店では、需要と供給の関係から単価を上げるしかない面があります。インバウンドの効果に加え、日本人の富裕層が増えていることも影響しているのではないでしょうか。

-政府は訪日外国人旅行者数6000万人、消費額15兆円を目標に掲げています。実現に向けて日本の観光産業に足りないものは何でしょうか。

佐々木 一言で言えば「儲ける心」だと思います。日本全体に、儲けることへの抵抗感がまだあります。無料で提供してしまうことも多いですし、二重価格の議論でも大きく反発が起きます。

 例えば、姫路城が値上げや二重価格を検討すると大きく話題になります。都庁の展望台は無料で利用できますが、極端に言えば、都民以外や外国人旅行者を有料にしてもよいかもしれない。そこが有料になれば、スカイツリーや渋谷スカイ、六本木ヒルズなど、東京にある有料展望台に一定の顧客が流れる可能性もあります。観光客からきちんと対価を得る設計は、公的な施設にもまだ余地があると思います。

 豊洲市場についても、安全管理上の理由で観光客を入れにくい事情は理解できます。ただ、観光客を受け入れて価値化できるものは、公共の領域にも民間にもたくさんあります。地方でも、ツアーの値付けが低すぎるケースは少なくありません。インバウンドは価値を価格に転嫁しやすく、その収益を人材の待遇改善やサービス向上に回せるチャンスです。観光産業全体が、もっと商売人的なスタンスを持ってもよいと思います。

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