「まだ現役ですけど何か」vol.4 -旅端のひと- 帰国便で機長からの降機命令
添乗員が最もほっとするしあわせなときは、日本行のフライトに乗り込んだときですよね。
事故なく、怪我なく、病気なく、スリにも遭わず、パスポートもなくさず、予定通りにスケジュールをこなせて、
トラブルなくお天気に恵まれるよう、ツアー中はひたすら、無事を祈るのみ。
10年前の出来事です。
ツアーはブタペスト、ローマを巡って、フランクフルトから羽田行のLH機内に乗り込んだ。
ここまでの無事に安堵し、添乗員も「さあ、もう、おしまいっ!」ビール飲んで爆睡だぁ。
「ボーン♪……、ツアーリーダーの旅端のひとサン、前方へお越し下さい」とアナウンス
「へっ? はい、わたし? なになに? ・・全員乗ったよね」
なにごとか? と向かうと、ご参加者のT社長とH社長が、キャビンアテンダントとなにやら揉めている
T社長曰く
「Hさんが体調悪くて、ビジネス席が空いてそうなので、そっちに座らせてもらえないかと頼んだんだよ」
H社長は、ツアー2ヶ月前の熊本地震の最も被害の大きかったところにお住まいも会社もあって、
大変なご苦労の中、被災地からご参加されたお客様・・・
「こんなときに、海外旅行なんて行っていいのか?」
周囲の状況と人の目もある中で、今回のメッセでは、業務上の重要な役割と視察、どうしてもキャンセル出来ない事情もありと、悩み抜いた挙句、葛藤を抱えての強行だった。
余震続く中での片付け作業、肉体と精神の疲労は蓄積し、出発日まで、より特別に頑張り尽くして、睡眠不足が続いたままの熊本からのロングな旅で、気を張っていたお身体に、お疲れもピークを迎えられたことと思います。
ひとの良いナニワのT社長が「ヒー イズ、シック! プリーズ、チェンジ、ビジネスシート!」
良かれと思って、懸命に、思いを伝えようとするあまり、さらに、おおげさな身振り手振りとなって、
「熱がある、頭も痛い、苦しい、オー、シックだ、シックだ、オネガイ、チェ~ンジ!」
シック、シックと連呼されたドイツ人のキャビンアテンダントから報告を受けた機長判断で、
降りるようにとの命が出た。発熱している病人を乗せるわけにはいかない。
「添乗員、あなたも一緒に残りますか?即刻決めて下さい!」
「はい、降ります」
機長命令は絶対だ、何を行っても覆ることはない、フライトを遅延させるわけにもいかない。
後方席に戻って、スリッパを履き替え、荷物をまとめて・・・心配そうに見守るお客様に、
「そういうわけで、すみませんここで失礼致します。皆様ご無事にお帰りを!」
2人分のスーツケースを降ろしたためにディレイした、ヒコーキを見送りながら、
数名いらっしゃる地方空港までのお乗り継ぎ、間に合わなかったら困るなと、冷静に思う。
空港内クリニックへ向かい、点滴と処方をしていただく。
熱が下がって安定し、ドクターから搭乗許可証をいただくまでは、しばらく帰れない。
海外旅行保険会社への報告と、直結するシェラトンエアポートホテルを手配して、LHに変更相談をして、
こうなったら、ゆっくり安静にしておやすみいただきましょう
もともとたくましいタイプのH社長、ぐっすり眠ったら、お元気になって、食欲旺盛にまで回復し、
翌日夜には、ドクターの許しも得られ、LHも無料で変更してくれて、無事、帰国となりました。
帰ったら、熊本では、また、大変な作業が待っているから、
フランクフルト空港でのおやすみは、神様からの贈り物だったのに違いない。
自分のせいで一緒に帰ることができなくなってしまったと恐縮しているT社長にも報告。
あの休息には意味があった、熊本で立ち向かうため、お身体を休めるために必要な一泊だったのです。
帰国後申請した保険で、治療費はもちろん、添乗員の同行費用もホテル代もすべて支払われた。
10年経って再びの熊本地震は、さらに厳しい暑さも加わり、辛すぎる被害状況に、
あの時のH社長を案じると共に、どうか、皆様のお心が折れないことを願うばかりです。
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フランクフルトメッセ

