高付加価値インバウンドの本質は「価格」ではなく「位置付け」にある-KYOTOyui 近藤芳彦氏
そこで一つの提案として考えているのが、「工芸」も「伝統産業」も、もう一度「現代アート」として捉え直し、発信していくことです。技法そのものは長い歴史に根ざしていても、そこから生まれるものは今を生きる人々に向けた「現代の表現」なんだという位置付けにする。この転換だけで、担い手として関わりたい若者の層も、購入する顧客層も、きっと大きく変わっていくはずです。「守るべき遺産」ではなく「今を切り拓く表現」として発信する。この視点の転換こそが、次世代へつなぐ最初の一歩になると、私は考えています。
もう一点、深く考えさせられているのが、日本のものづくりそのものの価値評価についてです。日本の産品の多くは、極めて高い技術と歴史的背景を持ちながら、その価値が世界市場において正当に評価される仕組みを持ち合わせていません。ワインの世界にあるような、国境を越えて共有される価値評価の物差しが、日本のものづくりにはまだ十分に整っていないのが実情です。
その結果、私たちは日本国内だけで通用する価値基準の中で商品を評価し、価格を決めてしまっています。「これは良いものだから、分かる人には分かる」という論理は、内向きには成立しても、世界市場ではなかなか通用しません。評価軸がない領域には、そもそも価格が付きにくいものだと思うのです。本来なら世界最高水準にあるはずのものが、国内の相場観の中で値付けされ続けている。この状態が続く限り、業界に十分な富は還元されず、担い手不足の解決にもつながっていきません。
では、その価値をどう引き上げていくか。私はここにこそ、インバウンド事業が担うべき本当の役割があると思っています。インバウンドは、単に「海外からお客様を呼ぶ事業」ではありません。日本の産品や体験を、世界の富裕層や文化的感度の高い層に直接届けて、その反応を通じて価値を再定義していく営みだと捉えています。まずは体験を通じて、日本のものづくりの価値そのものを伝えること。ものを売るのではなく、その背景にある物語、技術、風土、想いを体感していただく。和束町で農家の方が直接お茶を淹れる場を設けているのも、まさにこの発想からです。作り手の言葉と一杯のお茶が結びついた瞬間、お客様の中でその価値はぐんと膨らみます。私はこの瞬間を、現場で何度も目撃してきました。
その体験を通じて価値が伝わったところで、はじめて販売という段階が訪れます。その際に大切なのは、可能な限り付加価値を上げた価格で販売するという姿勢を、私たち自身が持つことだと思うのです。安く売ることが誠実さではありません。産業を存続させて、次の担い手に十分な報酬を渡すためには、正当な高価格で販売し、その価格を裏付ける体験と物語を提供する責任を、私たちが引き受けていく必要があると思っています。
「工芸」「伝統産業」から「現代アート」へ、「頑張れ」から「選ばれる」へ、呼び方を変えることは、業界の立ち位置を変えることそのものだと感じています。現場に立つ一人として、これからも実践を通じて、その可能性を探し続けていきたいと思っています。
株式会社KYOTOyui代表取締役。トラベル京都代表。1972年3月生まれ、大阪トラベルジャーナル旅行専門学校卒業後、旅行会社に3年ほど勤めるが、結婚を機に退職し、その後は他業種に就いたものの2006年に旅行業を立上げ、2016年には法人の観光業を営んでいる。趣味は「旅×仕事」です。

