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【会計士の視点】資本金1億円で中小企業へ、太閤園売却と増資で純資産復活も苦境続く-藤田観光

  • 2022年5月20日

椿山荘の売却話もあった!?売れる資産があるのは強み
純資産の動きが大きい時は株主資本等変動計算書を見る

 公認会計士の玉置繁之です。今回の「会計士の視点」は、藤田観光の決算書を分析して、会社がどういう状況にあるのかを分析したいと思います。

ホテル椿山荘東京(ホームページより抜粋)

 藤田観光はワシントンホテル等を経営する会社で、新型コロナウィルスの影響であわや債務超過の危機(保有株式の含み益のおかげでかろうじて債務超過回避という状態)まで陥りましたが、現在はそこからある程度は立ち直っており、とはいえ苦境が続く・・・という状況なのですが、そうした状況を決算書や決算説明資料等から詳細に分析していこうと思います。

 また「そういえばこの企画が始まってからまだ株主資本等変動計算書に触れたことがなかったな」ということに今更気が付いたので、今回はそもそもこれがどういうものなのかということや、どういう時に見ると良いか等を解説したいと思います。

 なお、恒例の注意事項ですが、筆者は藤田観光との間に特別な関係はなく、内部情報は一切知らない中で外部情報からの分析のみで検討をおこなっております。また当記事はあくまで筆者の私見であり、筆者の所属する団体や、掲載媒体であるトラベルビジョンの見解ではなく、また特定の銘柄への投資の推奨等を目的としたものでもないので、その点はご了承頂ければと思います。

藤田観光のビジネスを把握する

 これまでの連載記事でも書いてきたように、決算書を読む前に「そもそもこの会社は何をやっていて、どういうところで儲けているのか」を理解する必要があるので、それを見る上で一番有用と考えられるセグメント情報から見ていこうと思います。

 藤田観光は12月決算で、新型コロナウィルスの影響については、

  1. 2019年12月期
    全く影響なし

  2. 2020年12月期
    1月はほぼ影響がなかったと思われるものの、2月以降徐々に影響が出始めて、特に4月以降は顕著に影響あり。7月からはGotoトラベルの宿泊代割引が始まり、10月から12月の間は地域共通クーポンも含めたフルのGotoトラベルあり

  3. 2021年12月期
    感染の波やそれに伴う雰囲気の上下はあれど、全体を通して影響あり。Gotoトラベルは1年通してなし

という感じで、ビジネス全体を理解するためには、2019年からの3年分を見る必要があると考えられるので、3年分を見ていきたいと思います。

2019年12月期
2019年12月期 決算短信 3 報告セグメントごとの売上高、利益又は損失、資産、負債その他の項目の金額に関する情報より抜粋

2020年12月期
2020年12月期 決算短信 3 報告セグメントごとの売上高、利益又は損失、資産、負債その他の項目の金額に関する情報より抜粋

2021年12月期
2021年12月期 決算短信 3 報告セグメントごとの売上高、利益又は損失、資産、負債その他の項目の金額に関する情報より抜粋

 このように、売上で見るとWHG事業(ワシントンホテル、ホテルグレイスリーおよびホテルタビノス等の宿泊主体型ホテル)とラグジュアリー&バンケット事業(ホテル椿山壮東京、太閤園等の婚礼・宴会等も含めた事業)が2トップながら、利益についてはWHG事業で主に稼いでいる会社だということが分かります。

 2019年1年だけだとさすがに心配だったので一応念のためにもう少し過去にさかのぼって2017年、2018年にさかのぼって確認してもその傾向は見られ、基本的にはWHG事業で利益を稼ぎ、ラグジュアリー&バンケット事業は売上は大きいものの利益はトントンくらい、それ以外は赤字という理解で問題ないかと思います。

 それが新型コロナウィルスの影響でWHG事業の売上が落ちると、元々ホテルというと人件費や管理費、減価償却費等の固定費も多いビジネスであるため、一気に赤字に転落してしまったというのが現状です。

 この表を見て頂いても分かるように、2020年12月期と2021年12月期を比べると、2021年12月期の方が赤字幅は減少しておりますが、とはいえまだかなりの赤字規模であり、ビジネス上苦戦していることが分かります。

 しかし、実は2021年12月期で見ると、最終的な親会社に帰属する当期純利益は126億円をあげており、それについて次で解説したいと思います。

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