需要が戻るまでいかにマーケットを保たせるか―横浜観光コンベンション・ビューロー 青木思生氏(後編)

  • 2022年1月24日

鍵は「宿泊の獲得」
都道府県の中で戦う「市」、東京より高くても選ばれる街に

-そうした仕掛けには大きな労力がかかると思いますが、YCVBにはどれくらいの職員がいるのでしょうか。

青木 出向者もいるため流動的ですが、職員は平均40名ほどです。東京観光財団(TCVB)や大阪観光局に比べると大規模な組織ではありませんが、マネジメントエリアは横浜市内、かつメインとなるのが湾岸部なので、カバーができています。

 YCVBはこの規模としては広報の人数が多く、ウェブサイトも自前で運営し、掲載する写真や記事も内製しています。入職するとまずは取材に行き、記事を書き、添削して、プレスリリースを書く、という仕事を一通り経験します。

-何でも自分たちでこなすチームなんですね。

青木 よほどの人海戦術が必要な案件を除いては、委託に出す文化はあまりないですね。市から補助金を受けた事業を更に委託に出すとしたら、我々の仕事は単なる経理処理でしかありません。自分たちで考えた企画や戦略を市に提案し、予算化してもらう流れが重要だと思っています。そうした理由もあり、YCVBではできるだけ個性的な人を採用しています。私も金髪ですし、スーツも着ません。

-歴史的にも重要な役割を担い、今では日本のMICE開催のリーディング都市でもある横浜ですが、プロモーションなどで意識していることはありますか。
横浜赤レンガ倉庫の「フラワーガーデン」の様子(画像提供:横浜観光情報)

青木 「横浜はわざわざプロモーションしなくてもメディアに取り上げられるでしょう」とよく言われますが、お話した通り、我々もかなり緻密に計画を練って戦略的に動いており、決してあぐらをかいている訳ではありません。逆に言うと、そのように見られるということは成果が現れているということで嬉しいですが、ここから更にワンステップ上がるためは、満足度と推奨度、「人に勧める気持ち」が芽生えるような体験が提供できなければなりません。

 満足度や推奨度は、例えばホテルマンの対応に一風違ったオリジナリティがあったり、レストランで店主が話しかけてくれるなど、地域の人とのコミュニケーションのなかで形成されるものだと思います。定量的なデータ分析はもちろん、こうした数字には現れない部分も大事にしていきたいと考えています。

 その取り組みの1つとして、ホテル事業者の会員には新人研修を行っています。横浜に来るのが初めてという人も翌日からフロントに立てるような観光情報の研修をしたり、最先端のホスピタリティの事例をセミナー形式で紹介したり。分厚いおもてなしマニュアルも自前で作成しています。

 余談ですが、横浜は東京と比べられることが多く、「横浜にもあるものは東京にもあるじゃない」と言われがちです。ただ本来は、比べる規模が違うんですよね。横浜は「市」なので、比べるべきは渋谷、新宿、お台場、池袋、浅草といったエリアです。全エリアをひっくるめた「東京」には敵いませんが、個々に比較したときには勝負できると自負しています。ところが、プロ野球12球団で横浜ベイスターズだけが「市」なのと同じように、観光協会の集まりでも、我々はすっかり「都道府県のなかで戦う市」になっています (笑)。

-最後に観光産業の従事者へメッセージをお願いいたします。

青木 「どうしたらコロナ前の状態に戻せるか」を考える人もいると思うのですが、私たちがこの2年間で感じたことは、恐らくコロナ前に戻ることはもうないということです。中国人インバウンドの戻りに期待して準備をしておくといった話も、大きくパラダイムシフトしてしまっている以上、全く意味がないと思っています。

 それよりも、いま目の前にいるお客様をどう大事にしていくか、そしてそれを何年継続できるかが重要になってくるでしょう。横浜も国内の観光客を第一優先にしています。その次は国内のMICE客です。完全に国内にシフトして、インバウンドは入国ができるようになったときに考えればいいかな、くらいに思っています。皆さんも、あまり昔に囚われずに色々やってみては? というのが私の意見です。

-ありがとうございました。