【会計士の視点】経営者の判断は財務諸表にあらわれる-日本航空編
ANAホールディングスとの違いはどこか
資金調達の方針は「必要な時に必要な分を調達する」
前回はANAホールディングスを分析したので、今回は、もう一つの大手航空会社、日本航空(JAL)の2021年3月期の有価証券報告書と2021年6月の四半期報告書を中心に、公認会計士である筆者が日本航空は今どういう状況にあるのかを分析したいと思います。
また今回は最新の四半期報告書もあるので、せっかくなので「四半期報告書も含めてどうやって見ていくか」という点も解説したいと思います。
筆者は日本航空との間に特別な関係はなく(JALの飛行機に乗ったりスキーパックで利用するくらい)、内部情報は一切知りませんが、「外部情報からでもこのくらいのことは分かる」というのも記事を読んでいただければ分かるかと思います。
また恒例の注意事項ですが、当記事はあくまで筆者の私見であり、筆者の所属する団体や、掲載媒体であるトラベルビジョンの見解ではなく、また特定の銘柄への投資の推奨等を目的としたものでもないので、その点はご了承頂ければと思います。
日本航空のビジネスモデルを理解する
前回の記事で、会社分析をする上で、真っ先にすべきなのは「そもそもこの会社は何で儲けているのか?」という点を理解することだと書きましたが、これはやはり最重要なので、今回もそこから見ていきたいと思います。
この「何で儲けているのか」を見るためには、実は最新の四半期報告書があったとしても、直前期の有価証券報告書(今回で言うと2021年3月期のもの)を見た方が分かりやすいことが多く、四半期報告書は、最新の有価証券報告書を読んだ後に「情報のアップデート」として見るのをおすすめします。
これは、有価証券報告書の方が注記も前段部分の記載も圧倒的に多いのが理由で、ページ数でいうと四半期報告書が38ページに対して、有価証券報告書は187ページもあります。
これだけ多いと「全部読むのがつらい」と思う人も多いと思いますが、2、3社読むと「大体ここにこういうことが書いてある」というのが分かるようになり、情報を探すのも早くなるので、時間がある時に自分の会社や、自分がよく知っている会社の有価証券報告書をじっくりと精読してみるのをおすすめします。
会計士の場合、有価証券報告書の全文チェックは誰もが通る道で、私も監査法人の新人時代には200ページ近いボリュームの書類に書かれた会計数値や表現をチェックする作業に途方に暮れたこともありましたが(笑)、何回かこの作業をやると、段々そこまで苦にならなくなるので、とにかく慣れが大事です。
話を戻すと、前回も書いたように、ビジネスの理解の上では、有価証券や決算短信で必ず記載があるものでは「セグメント情報」の注記部分、さらには有価証券報告書の前半の方の「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」を見るのが早いので、まずはそこから確認していきます。
セグメント注記を見ると、日本航空でも当然記載があり、日本航空のセグメントは
- 航空運送事業
- その他
の2つになっていることが分かります。
そしてその2つだと、金額的には2021年3月期は売上収益の調整前合計の5394億円のうち航空運送事業が4318億円、大部分がコロナ前である2020年3月期も1兆5078億円のうち1兆2618億円と、大体8割くらいが航空運送事業で、さらにその他も「旅行企画販売事業等を含んでおります」とあるように、基本的にはイメージ通り「航空運送がほとんどで、旅行企画等が少しある」みたいな会社だと分かります。
次に前段の「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」を見ると、やはりここにもセグメントの詳細が載っていて、航空運送事業や、その他の内訳を見ることができます。
【航空運送事業】
科目 | 前連結会計年度 (自 2019年4月1日 至 2020年3月31日) | 構成比 (%) | 当連結会計年度 (自 2020年4月1日 至 2021年3月31日) | 構成比 (%) | 対前年 同期比 (%) |
---|---|---|---|---|---|
国際線 (フルサービスキャリア) | |||||
旅客収入(百万円) | 486,217 | 38.5 | 27,917 | 6.5 | 5.7 |
貨物収入(百万円) | 59,744 | 4.7 | 96,553 | 22.4 | 161.6 |
郵便収入(百万円) | 7,562 | 0.6 | 7,344 | 1.7 | 97.1 |
手荷物収入(百万円) | 842 | 0.1 | 333 | 0.1 | 39.6 |
小計(百万円) | 554,366 | 43.9 | 132,149 | 30.6 | 23.8 |
国内線 | |||||
旅客収入(百万円) | 529,707 | 42.0 | 174,006 | 40.3 | 32.8 |
貨物収入(百万円) | 20,724 | 1.6 | 21,735 | 5.0 | 104.9 |
郵便収入(百万円) | 3,627 | 0.3 | 3,192 | 0.7 | 88.0 |
手荷物収入(百万円) | 320 | 0.0 | 219 | 0.1 | 68.5 |
小計(百万円) | 554,380 | 43.9 | 199,154 | 46.1 | 35.9 |
国際線・国内線合計(百万円) | 1,108,746 | 87.9 | 331,304 | 76.7 | 29.9 |
その他の収入 (ZIPAIRの国際旅客収入を含む) (百万円) | 153,136 | 12.1 | 100,517 | 23.3 | 65.6 |
小計(百万円) | 1,261,883 | 100.0 | 431,821 | 100.0 | 34.2 |
【その他】
科目 | 前連結会計年度 (自 2019年4月1日 至 2020年3月31日) | 当連結会計年度 (自 2020年4月1日 至 2021年3月31日) | 対前年 同期比 (%) |
---|---|---|---|
海外旅行取扱人数(万人) | 18.3 | 0.0 | 0.0% |
国内旅行取扱人数(万人) | 260.6 | 114.1 | 43.8% |
売上収益(億円) (連結消去前) | 1,701 | 555 | 32.7% |
科目 | 前連結会計年度 (自 2019年4月1日 至 2020年3月31日) | 当連結会計年度 (自 2020年4月1日 至 2021年3月31日) | 対前年 同期比 (%) |
---|---|---|---|
カード会員数(万人) | 372.0 | 358.0 | 96.2% |
売上収益(億円) (連結消去前) | 196 | 186 | 95.1% |
これを見ると、コロナ前は国際線と国内線の売上がほぼ同じくらいだったのが、コロナで特に国際線の旅客収入の売上が大きく減少し、貨物収入は増加、国内線の旅客も大幅減も、国際線の苦境に比べると若干マシ、ということが分かります。
この傾向はANAホールディングスでも全く同じだったので、「航空事業はそういうものだ」ということが分かります。
「コロナが航空事業に与える影響」だとこういう動きになることは大体想像できると思いますが、あまり想像がつかないような業種だと、「こういう傾向になっているのが、業界全体の特徴なのか、この会社だけの特徴なのか」というのが分からないことも多く、また「分かったつもりでいたけど、実際見ると意外と分かっていなかった」というのが会計士でも割とあったりするので、このように同業他社をいくつか見てみるというのはかなり重要だったりします。
また、その他の中で金額的に大きいのはやはりジャルパックの旅行企画のようで、日本航空という会社は、やはり「航空運送がメインで、旅行も取り扱っているという、想像通りの会社だった」というのが結論となります。
そして、2021年6月の四半期報告書を見ても、売上収益計は1439億円のうち1251億円は航空運送事業、国際線の売上は112億円で、2020年4-6月期の27億円に比べればに比べれば回復しているものの、2019年4-6月期の1306億円(2020年6月期の四半期報告書を見れば載っています)に比べれば90%以上減少した水準であり、大きな傾向は変わっていないことが分かります。
この傾向は日本航空の有価証券報告書を見る前から何となく想像できたものでしたが、まずはこの「想像通りであった」というのを確認するのが非常に重要なので、会社を見る時は、必ずここから見るようにしてください。
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