【会計士の視点】経営者の判断は財務諸表にあらわれる-日本航空編
ANAホールディングスとの違いはどこか
資金調達の方針は「必要な時に必要な分を調達する」
日本航空の繰延税金資産
最後に、前回のANAホールディングスの記事でも書いた、「繰延税金資産」の論点をここでも見ていきます。これは欠損金等、理論上将来税金を下げる効果のあるものについて、本当に回収できるのか、つまり「将来利益が出ることが合理的な事業計画で証明できるのか」という点も検証されたものです。
連結貸借対照表を見ると、日本航空の繰延税金資産残高は、2020年3月期末で1223億円、2021年3月期末で2258億円、2021年6月時点で2518億円と、増加傾向にあります。
四半期報告書だとこの繰延税金資産についての注記はありませんが、有価証券報告書だと記載があるので、2021年3月期の有価証券報告書で中身を見ていきます。(これが前述の「有価証券報告書の方が内容が多い」という話です)
こちらはP105の法人所得税の注記のところに記載があり、内容の大部分は繰越欠損金であり、具体的には2021年3月期末時点で回収可能な部分が1484億円、回収不能と見込まれる分が32億円と、大部分が回収可能と見込まれているようです。
この回収不能な部分については、想像ですが、おそらく赤字子会等の、会社単位で欠損金の回収可能性が難しいと判断された子会社にかかる分なのではないかと思います。
そして、前回のANAホールディングスの記事でも書きましたが、繰延税金資産の回収可能性の判断はかなり重要なので、監査報告書にも書かれているだろうと推測して監査報告書を見ると、やはりきちんと検討した形跡があり、主要な仮定の合理性や、過去の計画の達成状況等も勘案した上で判断した結果、上記のように大部分には回収可能性があると2021年6月18日付の監査報告書で判断したようです。
そして四半期決算については、「レビュー」という若干簡易的な手続きになるのですが、四半期レビュー報告書日時点である2021年8月4日時点でも、繰延税金資産の計上については検証をおこなったはずで、その上でも回収可能性ありと判断された結果、繰延税金資産が計上されています。
とはいえ、いずれにしてもこういう状況の会社で繰延税金資産の回収可能性を監査法人が検証していないはずはなく、その上でこれだけ多額の繰延税金資産の計上が認められている以上は、やはり「合理的な事業計画」で考えると、将来的にはちゃんと利益が出てきて、今の欠損金は回収可能と考えられている、ということが分かります。
会計士の視点
- 日本航空のビジネスは基本的に航空運送事業が8割で、残り2割の主要な部分は旅行企画販売
- 損益の状況としては、ANAホールディングスとほぼ同じで、国際線旅客収入が特に壊滅的で、国内線需要も減少した結果、売上高が大幅減。その一方で費用は固定費部分が下がり切らず、赤字となっている
- 2021年4-6月は、2020年4-6月に比べれば若干マシにはなっているものの、それでもこのまま年換算すると営業赤字が3072億円と、「前期よりはマシだがそれでも大きな赤字」という感じであり、まだ状況が好転したとは言い難い
- 資金調達については、「必要な時に必要な分を調達する」という方針のようで、今時点で流動性に問題はなく、また3000億円のコミットメントライン契約もあるので、倒産とかを心配するような状況では全くない
- 繰延税金資産の回収可能性を見ると、長期的には今年の赤字を回収できると見込んでおり、監査法人もそれを検証の上で認めている
<過去の記事はこちら>
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東京大学経済学部卒業後、大手監査法人、コンサルティング会社を経て、現在は玉置公認会計士事務所に所属。監査業務の他、非上場会社の株価算定やデューデリジェンス、企業へのコンサルティング、決算支援、再生支援等をおこなう。