【コラム】旅行会社の本質とはーオンライン対応の遅れが致命傷?違うでしょ…
コロナ前から従来型旅行会社の凋落傾向は顕著で、その主因はオンライン化の遅れだと指摘されてきました。表層ではそのように見えますが、実は違うのでは無いでしょうか。
移動手段、宿泊施設、現地等々の「旅」に必要な情報が簡単に得られなかった時代や、個人旅行と団体旅行の価格差が大きかった時代は、消費者に比べ圧倒的な情報量を持つ旅行会社、添乗員同行の団体旅行を企画造成する旅行会社の存在は人々が旅をするために必須な存在でした。
しかし、ネットで簡単かつ無料で情報を得られ、スマホが有れば世界中どこでもナビや翻訳機能が使える今、旅行会社の情報優位性は殆ど有りません。このような状況になれば、大半の消費者が求めるのは、必要とする旅行素材単品をより廉価に、簡単に入手する事です。
この新たなニーズに対応したのが「OTA」という新たなプレイヤーだった、要するに消費者が求めるものが変わると同時に提供者も変わったと言う事だと筆者は理解しています。もちろん、この流れを早期にキャッチアップし、旅行会社から「OTA」に業態転換する選択肢は有り、それをしなかったという意味での「オンライン対応の遅れが致命傷説」ならその通りでしょう。
では、従来の旅行会社には「OTA」に変態する以外、選択肢は無かったのでしょうか?
国内外の地域及びそこに根付く文化や人の魅力、宿泊施設や移動手段の情報を自ら時間もコストもかけて収集し、ペルソナ毎に丁寧に商品を企画造成する。出張需要に関しても、潜在的な顧客ニーズを探求し、受注を起点としない提案型で勝負する。何れも至極当たり前の事ですが「旅行会社」の本質はここに在り、原点・本質に立ち返ると言う選択肢は理論上は有ったと思います。
しかし、旅行消費の中で、今や極めて大きなシェアを占める、素材単品や単純組み合わせの領域の大半を「OTA」が担う以上、取扱人数や売上=会社規模の縮小は避けられず、コロナ前にこの経営判断をする事は極めて難しく、事実上選択肢は無かったのかも知れません。
そしてコロナです。この疫病は我々に致命的とも言える傷を負わせ、未だ収束は見えません。大半の観光産業関連企業は強制的に規模の縮小を余儀なくされています。少なくとも当面は、需要も供給も完全には戻らないでしょう。既に1年以上この状況を嘆いてきましたが、もはや無理矢理にでもポジティブに捉える以外、観光産業再生の道は無いと思います。コロナが無ければ変えられなかった事が変わった、これを千載一遇のチャンスと捉え、自らを変えられる会社だけが、コロナの夜明けを見れるのでは無いでしょうか。
㈱エフネス代表取締役社長兼トラベルビジョン発行人。27歳でエフネスの前身㈱ルゥエストを創業し、31周年にあたる今年に至る。旅行素材のホールセール、観光関連企業への決済サービス提供、緊急対応代行、業界誌トラベルビジョン運営等々、主に観光産業内のB2B事業に携わる。
㈱ティ・エス・ディ代表取締役、一般社団法人インバウンドデジタルマーケティング協議会理事、㈱ミックナイン社外取締役