旅行業界の人材育成について大切なことは?-RT Collection 柴田真人氏

 それでは、旅行会社だけが人材育成に取り組めば、観光業界が良くなっていくのかというとそうではありません。旅行会社は様々な観光事業者と関わり、また観光局や自治体、地域住民とも関わることがあります。そのため、幅広い考えや知識が求められることに間違いはありません。しかし、旅行会社だけではなく、受け入れ側の観光事業者や自治体なども幅広い考えや知識を持っていかなければなりません。

 それを強く思うようになったのは、海外で日本人観光客の受け入れをしている時の出来事でした。

 2018年にフィリピンのボラカイ島がオーバーツーリズムによる環境問題のため、島を閉鎖したことがありましたが、皆さんの記憶にもまだ新しいのではないでしょうか。2010年からボラカイ島の移り変わりを現地で見てきて、観光客が増えるにつれて、海の色が変わり、砂浜はコンクリートのように硬くなり、街中には下水があふれ出し、所狭しとホテルが建設され、まさに教科書に書かれているようなオーバーツーリズムを目の当たりにしました。

 旅行会社として旅行者を観光地に送ることでゴミが増えてビーチが汚れる、そんな浅はかな考えを当時は持っていました。しかし、CSR(企業の社会的責任)の一環としてビーチクリーニングを実施した際にその考えは大きく変わりました。

 ビーチクリーニングでは観光局や自治体、地元の小学生、観光事業者に声をかけて参加してもらいました。早朝からたくさんの人が集まり、ビーチに落ちているペットボトルや空き瓶を拾い、たくさんのゴミを集めていました。その時、小学生の子供たちがヤシの木にトングを差し込んで何かを取り出そうとしていました。それは、タバコの吸い殻です。最初はなぜヤシの木にタバコの吸い殻があるのだろうと疑問に思いましたが、現地の人から話を聞いてみると、ビーチで活動しているツアー会社のスタッフや地元住民がタバコを吸った後にヤシの木のデコボコした表面の隙間にタバコを消すために押し付けて、そのまま放置しているということでした。

 それを聞いた時に観光地に旅行者を送る旅行会社だけが取り組んでも変わらないものがある、受け入れ側の観光事業者や地元住民、自治体側もしっかりと観光の本質を考えて、行動に移していかなければならないと痛感しました。そして、観光に関わる人全員を育成していくことがいかに大切か、そんなことを考えさせられる出来事でした。

 今後、日本のサービス業は数百万人単位で人材不足になっていきます。外国人労働者が今よりも多くなることは近い将来必ずやってきます。多様性がより求められる時代にもなり、それに合った人材育成が必要となってくるでしょう。

 このように旅行業界や観光業界での人材育成は課題の1つであり、今後一番に取り組んでいかなければなりません。事業者を超えて協力し合い、旅行業界の人材育成が進んでいくことを日々思っています。

柴田 真人 / Masato SHIBATA
大学生時代にオーストラリアのタスマニア島で過ごし、旅行会社に就職。15年間の旅行会社勤務時代には主に東南アジア方面の仕入れや企画に従事。また、フィリピンでの5年7ヵ月間の海外赴任を通して、アウトソーシング事業の立ち上げからインバウンド事業における現地支店の立ち上げ及び日本マーケット初のチャーター便運航のプロジェクトなどを経験。その後、2018年に合同会社 RT Collectionを設立。