マイルで生活できる世界を目指し、非日常から日常への拡大に挑戦-ANA X代表取締役社長 井上慎一氏

需要はマグマのように溜まっている状態
知恵を働かせればさまざまな可能性がある

 ANA Xは、非航空分野ビジネスの拡大を目指すANAグループ戦略の要として一段とその重要性を高めている。そのANA Xの社長に4月1日付で就任したのが井上慎一氏だ。ピーチ・アビエーションの創業当時から指揮を執り有力LCCに育て上げた同氏が、今度は非航空分野ビジネスにどのような変革を起こそうとしているのか。(聞き手:弊社代表取締役社長兼トラベルビジョン発行人 岡田直樹)

ANA X 代表取締役社長の井上慎一氏
-ANAグループにおけるANA Xの役割を教えてください。

井上慎一氏(以下敬称略) ANA Xは2016年に設立された会社で、ANAのマイレージ会員を基盤として顧客マーケティングとデータドリブンマーケティングの知見を蓄積し、デジタルを中心としたグループプラットフォーム機能の強化を図る役割を担っています。具体的にはANAウェブサイトの運営やアプリ開発によりグループのデジタル周りの仕組みと、データ分析に基づいたマーケティングを強化してきました。昨年はデジタル決済の「ANA Pay」もスタートするなどデジタルプラットフォームの基盤づくりに取り組んできましたが、コロナ禍によりこれまでやろうとしていた事柄を前倒しで進める形になりました。

 ANA Xが目指すのは「マイルで生活できる世界」を創造することです。当面はこれまでと同じように航空や旅行がマイルの中心になりますが、非日常である航空移動や旅行の場面にとどまらず、今後は日常の世界にもマイルの世界を大きく広げていきます。そのためにマイルのプラットフォームを活用し、さまざまなパートナーとの提携を拡大して行く方針で、パートナーの力も借りながら従来になかった商品やサービスをマイルの世界で提供し、新しい価値を創造していきます。

 ANA Xの主な事業内容は4つに分かれます。1つ目は旧ANAセールスが担っていた国内・海外旅行事業。2つ目はANA航空券のデジタルチャネルにおける販売促進。3つ目は消費者の日常との接点を担うライフサービス事業です。具体的にはECの「A-style」や金融決済事業の「ANA Pay」、ふるさと納税など。その他、銀行代理業や保険も視野に入れながらライフサービス事業を推進していきます。またマイル加盟店などとのマイル提携にも取り組みます。

 ここまではB2C事業ですが、4つ目はB2B事業として取り組むもので、顧客データを活用した広告サービスやデータ分析支援サービスといったソリューション提供です。ターゲットは法人及び自治体で、ここはANAあきんどとコラボレーションしていく部分でもあり、共に地域創生に取り組みます。この分野には先行するさまざまなプラットフォーマーがいるので、ANA Xとしての差別化を図ることが重要。ANAグループならではの強みを意識し独自性あるプラットフォーマーを目指します。

-海外で盛んに行われているマイルの売買や譲渡についてのお考えをお聞かせください。

井上 マイルは顧客とのエンゲージメント強化が大きな目的であり、これを売買してしまえば逆にエンゲージメントの毀損に繋がります。もちろん日本では一定の規制もあります。したがってマイルをANAグループ内事業に活かすことに力点を置いています。グループ内で活かせるようにするためにもパートナーの力を借りながら、プラットフォームで提供するコンテンツの魅力向上を図らなくてはなりません。便利で早くて簡単で楽しいマイルの世界を創り上げ、常に回遊してもらえる環境を整え、その中でマイルを使ってもらう。そういう世界を目指しています。

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