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マイルで生活できる世界を目指し、非日常から日常への拡大に挑戦-ANA X代表取締役社長 井上慎一氏

需要はマグマのように溜まっている状態
知恵を働かせればさまざまな可能性がある

-ANA Xという社名に込められた思いについて教えてください。

井上 ANA Xの「X」には3つの意味が込められています。1つ目が未知数、無限の可能性といった意味です。2つ目はXをクロスと読んで、ヒトやモノ、アイデアなどがクロスしてつながる、交わるといったイメージを託しています。今年度のANAグループの営業全体の方針として、お客様に寄り添い、お客様の発想ですべてを行うというメッセージを発信しています。これを実現するため、ANAはマーケティング室とCE(カスタマー・エクスペリエンス)マネジメント室を統合してCX推進室を新設しました。これは「モノを売る」組織から「体験価値を提供する」組織への変化であり、これと同じ流れの中でANA XとANAあきんどもグループ内に位置付けられています。ですから社員、パートナー、社会との繋がりを大切にするという意味もX、クロスに込めています。

 3つ目はシナジーを掛け算で発想するとの意味です。個社で提供できる内容には限りがあり、パートナーと一緒に取り組み、より高い価値を提供することが必要です。それがシナジーの掛け合わせです。

-旅行事業についてはどのような顧客ターゲットや事業内容を想定されていますか。

井上 これまでは航空券とホテルの組み合わせを主軸にパンフレットによる販売をしてきましたが、コロナ禍で環境が一変し、デジタル化が一気に進みました。旅行ニーズも旅行形態も変化しています。これに合わせ国内・海外ともにダイナミックパッケージ化を急速に進めるとともに、新たに素材組み合わせ型の旅行形態を強化していきます。ANA Xのプラットフォームにおいて、最適のタイミングで最適の旅行サービスを提供するため、パートナーと連携し素材を大幅に拡充しています。旅行事業で目指す世界観はTaaS、つまりTravel as a Serviceで、顧客の望む消費行動や体験をワンストップで提供できる世界を実現させます。タビナカの観光、飲食、買い物までアプリ1つでシームレスに利用でき、安心、簡単、便利に楽しめるプラットフォームを創ります。

 コロナには教えてもらったこともありました。旅行事業では新たな商品造りを進めており、昨年はコロナ禍の中でA380型機を使用した遊覧飛行「ホヌ・チャーター」や、オンラインツアーを商品化しました。コロナがなければ世界最大の旅客機A380を使った遊覧飛行など誰も想像すらしませんでしたが、実際に商品化したところ、これが大ヒット。2020年6月に、整備のためにお客様を乗せずに飛行しているという報道をご覧になったお客様から、せっかく飛ばすのであれば搭乗したいというという声が寄せられたのがきっかけでハワイ旅行気分を味わえる遊覧飛行を企画したのですが、初回の予約倍率が約150倍。その後も満席が続き「なかなか予約が取れない」とお客様からお叱りを受けるほど。すでに10数回催行しており、大ヒット商品になっています。

 オンラインツアーもオンライン修学旅行を中心に人気があります。学校の体育館などを会場に実施する50分間の台湾修学旅行のプログラムで、羽田空港施設の見学やフライトの様子、台北空港到着までをストーリー化してオンラインで再現しました。現地の学生ともオンラインで繋ぎ、観光もバーチャル体験する工夫も施し商品化しました。知恵を働かせればさまざまな可能性があるのだと感じさせられる成功事例でした。

-ANA Xの旅行事業はB2Cと考えてよろしいですか。

井上 基本的にその通りですが、あらゆる可能性を排除しないのでB2Bに取り組む可能性がないわけではありません。

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