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【弁護士に聞く・番外編】流通研究会の報告書成る!

  • 2021年4月26日

 待ちに待った流通研究会の報告書がとりまとめられた。同研究会は、日本旅行業協会(JATA)の法制委員会(委員長原優氏)が、同委員会内に2019年4月に、ネット流通に移行した旅行商品の流通構造の変化を整理し、必要な法規制の検討を行うと共に、課題となっている諸問題を議論し提言にまとめるために作った勉強会だ。当初は19年度に討議を重ね20年3月に報告書のとりまとめを目指したが、コロナ禍により討議は中断し、1年遅れとなった。冒頭に「待ちに待った」と言ったのは、報告が予定より遅れたこともあるが、個別の名前は差し控えるが、座長が風の旅行社、委員がエアプラス、ユニオンエアサービス、道祖神、日本橋夢屋、クロノス・インターナショナル、旅工房、シー.エイ.エヌ、IACEトラベル(いずれも株式会社)と、「個性的な強みを持った旅行会社」(報告書「第1.はじめに」)の社長・役員で構成され、さぞかしユニークな切り口と議論、提言が出されるのではと野次馬的興味が沸いたからである。

観光学部と新入社員の「読み物」

 しかし、そうした期待は見事に良い意味で裏切られた。実に真正面から旅行業界が直面している課題とそれを取り巻く環境の変化を捉え、奇を衒わず正直な議論をされている。結論に当たる5つの提言は勿論重要であるが、そこに至る旅行業を中心とする社会環境の変化と旅行会社の取り組みの経緯等といった事実に関する記述が、実に簡にして要を得ているだけでなく、正確で良く整理されている。論理展開も緩やかで幅があるので、素直に結論(提言)に辿りつけるし、他の対処(アイデア)もあるのではといった刺激も与えてくれる。その意味で、まだ白紙で柔軟な脳を持っている観光学部の学生や旅行会社の新入社員に、「旅行業の今と課題、近未来への希望」を語る格好の「読み物」かも知れない。

 例えば、第2.討議内容の「2.旅行会社のネット販売への対応」の「(2)旅行会社のeコマースへの取り組みの問題点」では、「旅行会社のネット販売において旅行業法・旅行業約款による規制が障害になっているではないかと検証」すなわち「仮に、海外のOTAがこれらの規制を受けておらず、それがeコマース上有利に働いているとするならば、それは是正されなければならない」と問題点を指摘している。しかし、結論として「これらの規制が求めるネット上での表示が必要な事項は特別に負担となるような内容ではなく、旅行商品の内容を伝えるには必要不可欠である」とし、「むしろ、日本の旅行会社のweb設計の仕方に問題がある」として具体的な設計上の問題点を解明している。日頃、webサイトを通じての旅行取引に関するクレームの殆どがサイトのシステムに問題がありながら、システム改修には費用が掛かりすぎるとして放置している旅行会社の多くを知っているだけに、この指摘は正直で正鵠を得ている。

 あるいは、「5.取消料の問題」の「(1)受注型実額精算約款実現までの経緯」では、標準旅行業約款の改正には観光庁長官と消費者庁長官との協議が必要であり時間がかかりすぎることから「個別認可約款書式」なるものがJATA・ANTA事務局と観光庁との協議で作られた経緯が語られ、すでに7つもの個別認可約款が一覧表になって整理されている。報告書は、「個別認可約款はあくまで例外のはず。常態化するのであれば、旅行契約そのものを根本から検討する必要」があるが、「当面は個別認可約款による対応とせざるを得ない」として現行標準旅行業約款制度の硬直性を鋭く抉っている。報告書を読んでいて、観光庁と消費者庁との間で、例えば「登録旅行業者の過半数が認可申請をした個別認可約款については、1年以上の間消費者からの特段のクレームがなければ、順次標準旅行業約款に組み込む」といった標準旅行業約款化への透明な基準を作ってもらうことも硬直性をほぐす道ではないかと思いついた。

現実的な5つの提言

 こうした正確な事実経過の記述と問題点の指摘と検討を通じて、報告書は5つの提言をしている。その内容は、旅行業法改正と個別認可約款の創設など多岐にわたっている。是非、報告書原文を読んでいただきたいので、あえてその内容は明らかにはしないが、既に一部の旅行会社が採用している保険制度の創設も含まれるなど、いずれも既存の制度を根底から作り直すことを要するものではなく観光庁がその気になっていただければ、実現性の高い現実的な提案ばかりである。

 報告書は、議論の叩き台を提供するというスタンスから、「JATAの統一見解としてまとめたものではない」と「ご注意」が記載されているが、早期に議論を発展させJATA・ANTAの協議を行い、観光庁への働きかけを始めることを期待したい。

※編集部注:4月26日現在、流通研究会の報告書は一般公開されていません。

三浦雅生 弁護士
75年司法試験合格。76年明治大学法学部卒業。78年東京弁護士会に弁護士登録。91年に社団法人日本旅行業協会(JATA)「90年代の旅行業法制を考える会」、92年に運輸省「旅行業務適正化対策研究会」、93年に運輸省「旅行業問題研究会」、02年に国土交通省「旅行業法等検討懇談会」の各委員を歴任。15年2月観光庁「OTAガイドライン策定検討委員会」委員、同年11月国土交通省・厚生労働省「「民泊サービス」のあり方に関する検討会」委員、16年1月国土交通省「軽井沢バス事故対策検討委員会」委員、同年10月観光庁「新たな時代の旅行業法制に関する検討会」委員、17年6月新宿区民泊問題対策検討会議副議長、世田谷区民泊検討委員会委員長に各就任。