「帝国ホテルに住まう」が意味するもの-ホテルビジネスを分析する
帝国ホテルサービスアパートメントのビジネスモデルとは
「持ち家」「賃貸」「ホテル」未来は住み方が多様化する?
F-ness International(Singapore)代表取締役の赤井亮太です。シンガポールは、旧正月(今年は2月12日)の準備に忙しく、街もオフィスも装飾で彩られ始めています。クリスマスから大晦日・元旦を経て旧正月くらいまでは、長く年末年始が続いているような状態です。
本日は、「帝国ホテルに住まう」を取り上げてみたいと思います。(帝国ホテルのホームページでは、帝国ホテルサービスアパートメントと呼ばれていますので、以後、帝国ホテルサービスアパートメントという名称を使います。)多くのニュース等で取り上げられましたので、皆様も関心を持っていることと思います。
ホテルのビジネスモデル
2019年は近年のインバウンドブーム、および東京オリンピックを1年後に控えホテルの開業ラッシュでした。特に外資系ホテルの攻勢はすさまじく、ハレクラニ沖縄やパークハイアット京都、アマン京都などが次々と開業しました。新型コロナウイルスの影響で客室単価や、客室稼働率は落ちているものの、2020年も開業ラッシュは続きました。長期的な視点に立てば、日本へのインバウンドは増えるという見通しに基づいているものと思われます(もちろん、そうなって欲しいですが)。その一方で、資金力がないホテルや民泊などは廃業に追い込まれています。需要増を見通して供給増となっていましたので、供給が適正化されていると見ることもできます。
それでは、ホテルのビジネスモデルを見てみたいと思います。ここでは、わかりやすいように帝国ホテルとドーミーインを比較します(どちらが良い悪いではなく、あくまで比較のために載せています)。
ホテル | 項目 | FY3/2019 | FY3/2020 |
---|---|---|---|
帝国ホテル | 売上(A) | 58,426 | 54,558 |
原価+販管費(B) | 53,390 | 51,398 | |
営業利益(C) | 5,036 | 3,160 | |
営業利益率(D)=C/A | 9% | 6% | |
ドーミーイン | 売上(A) | 45,500 | 46,000 |
原価+販管費(B) | 38,850 | 40,740 | |
営業利益(C) | 6,650 | 5,260 | |
営業利益率(D)=C/A | 15% | 11% |
※両社IRより抜粋して計算
※ドーミーインに関しては、共立メンテナンスIR資料よりビジネスホテル部門だけを抜粋
まず確認できるのは、利益率の違いです。イメージでは帝国ホテルの方が単価が高く、利益率が高いように思いますが、実際にはドーミーインの利益率が高くなっています。
単純化しますと、売上および営業利益は、下記の計算式となります。
①売上=客室数(固定)x 客室稼働率 x 宿泊単価
②営業利益=売上-原価-販管費
これを見ると、営業利益を上げるには、客室稼働率を上げる、宿泊単価を上げる、もしくは原価(リネン等)を下げる、販管費を下げる、しかないわけです。
帝国ホテルの場合には、良いサービスを提供する(社員教育、良いシーツを使う、などのコスト増要因)ことで単価を上げる。一方で、ドーミーインの場合には、単価を抑えるために、コストを下げる(配置する人数を減らす、シャンプーは備え付けのみにする)という戦略を取っているわけです。
例えば、帝国ホテルでチェックインすると、「荷物をお部屋までお持ちしましょうか」と声をかけられるのに対し、ドーミーインではそれがないはずです。しかし、それは顧客が求めていないので問題はないわけです。それによるコスト増・宿泊単価増は、ドーミーインの顧客にはマイナスになります。
このように、戦略に対する違いはあるわけですが、営業利益率だけを見ると、ドーミーイン、つまりビジネスホテルに軍配が上がります。
ただし、両社に共通して言えることは、営業利益率が10%前後ということです。仮に客室稼働率が10%下がると、売上が10%下がり、コストが変わらないと仮定すると、営業利益はゼロになるということです。それだけ、ホテルは装置産業の要素が強く、客室稼働率に大きく左右されるビジネスと言えます。