「帝国ホテルに住まう」が意味するもの-ホテルビジネスを分析する

  • 2021年2月8日

帝国ホテルサービスアパートメントのビジネスモデルとは
「持ち家」「賃貸」「ホテル」未来は住み方が多様化する?

コロナの影響

 帝国ホテルの最も最新の決算を見ると、下記のように6,704百万円の営業損失を出しています。

帝国ホテルFY3/2021中間決算

帝国ホテルのホームページより抜粋

 先ほどの計算式で言えば、客室稼働率が大幅に下がり、次いで、競合ホテルも値段を下げるために客室単価も下がった。しかし、コスト側はそこまで大幅に減少させられなかったため、赤字になっているわけです。

 コロナ渦の状況においては、おしなべて半分以上の客室は空いているのではないかと思われます。コスト削減にも限界があるため、何としても客室稼働率を上げ、客室単価を下げない状況を作りたかったはずです。そういった状況の中で、帝国ホテルサービスアパートメントというサービスが登場します。

帝国ホテルサービスアパートメントの意味

 先ほど述べた通り、コロナの影響で客室稼働率はかなり落ちており、そこを上げたかったわけです。ここでSWOT分析に基づき、状況を整理・分析してみたいと思います。

帝国ホテルサービスアパートメントのSWOT分析
プラス要因 マイナス要因
内部環境 強み

・高いブランド力
・高いサービスクオリティ
・コーポレートを中心とした顧客基盤
・ジム、カフェ、プールなどの施設
弱み

・宿泊価格の高さ、宿泊に対する敷居の高さ
・インバウンドへの傾注ゆえの国内市場での存在感の低下
外部環境 機会

・ノマドワーカーの増加
・シェアオフィスの増加
・感染を防止するために、テレワークを導入する企業が増加してきたこと
脅威

・GoToトラベルの停止、インバウンド停止に伴う需要の大幅増
・少子高齢化の進行による長期的な需要減
・民泊の増加


 帝国ホテルとしては、テレワークの拡大を受け(機会)、自社が持つ高いサービス、ジム、プールなどの施設をフルに活用し(強み)、顧客を獲得していこうと考えたと思います。それが今回の「帝国ホテルに住まう」です。営業面に関しても、帝国ホテルが持つ顧客基盤を通じて営業ができる(強み)と思われます。今回のサービスは、拡大しつつある機会にうまく自社の強みを当てた事例と言えます。また、今回のサービスにより多くのメディアで取り上げられましたので、十分な宣伝効果があったと考えられ、認知度においても貢献をしたのではないかと思います。

 もう一点、このサービスには良い効果があります。それはコスト減(もしくは、それほどコスト増しない)が可能なことです。例えば、1泊のみのゲストが7日(1週間)続く場合、チェックイン・チェックアウトが7回ずつ必要になります。一方で、6泊7日(1週間)のゲストがいた場合、チェックイン・チェックアウトはそれぞれ1回に減ります。つまり、人件費は理論上7分の1(14-15%)になるわけです。

 さらに、バスタオルの交換を2日に1回、歯ブラシを滞在中交換しない、シーツの交換を3日に1回にすれば、原価まで落ちていくことになります。こうすることで、限界利益が低くなり、客室単価を安くしても利益が出る構造になるわけです。そのため、帝国ホテルも、1泊よりも2泊、2泊よりも7泊、7泊よりも30泊となるごとに単価を安く設定できるわけです。

 つまりこのサービスは、市場のニーズをうまく捉え、かつ、ビジネス的にもしっかりと成り立つわけです。市場の拡大と相まって、帝国ホテルサービスアパートメントはうまくいくのではないかと思います。

まとめ

 今後、このようなサービスが大手ホテルを中心に広がるのか、一過性のブームとして去っていくのか、それは新型コロナウイルスが落ち着くかどうかに大きく左右されると思います。しかし、コスト的な側面から考えると導入するホテルが増えていくのではないかと思います。働き方が多様化すると、住み方が多様化するのかもしれませんね。もしかしたら、「持ち家がいいか?賃貸がいいか?」という議論に、未来は「ホテルがいいか?」が加わるかもしれません。

 いずれにしろ、面白い事例だと思います。コロナ渦は、良い意味でも悪い意味でも変化が出てくると思います。帝国ホテルサービスアパートメントや、フードデリバリーの浸透はその一例と言えるでしょう。身近にある変化に目を配ると新たな発見があるのではないでしょうか。

赤井亮太
F-ness International(Singapore)代表取締役社長
2007年東京大学大学院卒業後、アクセンチュア経営コンサルティンググループ、mixi、Expedia等を経て、2018年エフネスに参画。2019年より、F-ness International(Singapore)代表取締役社長に就任。シンガポールから海外の販売先パートナー開拓などをおこなっている。