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旅行会社が描く今後のカスタマージャーニーは-経営フォーラム

環境変化を受け、旅行会社は戦略見直しの時
今後のタビマエ・ナカ・アト需要を捕えるには

宿に地域性を引き込み「郷土力」向上-鶴雅リゾート

大西氏  「タビマエの前段階として、施設を作るところからカスタマージャーニーは始まっている」と語るのは、鶴雅リゾート常務取締役の大西希氏だ。北海道で展開する13施設の多くはリノベーションによるものだが、デザインの段階で「どのような客層にどう過ごして欲しいかを論じる」ことから始めるという。

 その際に重視しているのが「郷土力」で、14年前に阿寒湖エリアで開業した「鄙の座」が転機に。大西氏は、それまで意識していた「和のおもてなし」では本州の歴史ある旅館に勝てないと認識し、「この土地に根付くアイヌ文化やオホーツク文化を理解して磨き上げ、地域の感動を宿のなかでも継続できるよう表現していくことを心がけた」と語る。

 現在、鶴雅グループのゲストは約4人に1人が外国人で、日本人は道内外が半々。「属性の異なるお客様に情報を届けるには、タビマエではホームページ、タビナカではリアルな体験を重視する」と大西氏は語る。各施設の公式サイトでは過ごし方を提案し、タビナカについては地域の住民やホテルスタッフとの触れ合いを促す企画を実施しているという。今後は体験型の「アドベンチャーツーリズム」の活性化を促進するため、施設内に新設した情報発信拠点で滞在中のメニューを組み立てられるようにする計画だ。

 さらに、旅の余韻をつなげるタビアトに関しては、「トリップアドバイザーやじゃらんなどの口コミに返信することで、リアルな対話ができている」と両ツールを評価した。

リアル店舗の「使い方がわからない」世代が登場

会場の様子  後半の意見交換では、まずJTB総研の山下氏が「カスタマージャーニーをデザインしながらデジタルの力を活かすには、大きな組織であればあるほどセクショナリズムの壁が立ちはだかる」と指摘。それを受けてじゃらんの沢登氏は「旅行に加えて、飲食、美容、決済と複合的な情報をカスタマージャーニーによって最適な形で提案し、顧客の行動回数を増やしていきたい」と述べ、加えて「近い将来に『リクルートポイント』や『Airペイ』などで顧客のライフステージをつなげていく考えもある」と話した。

 今後は各セクションがもつデータベースや情報をどうシェアしていくのかが、カスタマージャーニーを描く際の大きな課題になると見られる。このことについて鶴雅リゾートの大西氏は、これまでは「各施設の支配人が社長」というスタンスで、顧客のデータベースをブランドごとに管理していたが、「『鶴雅ブランド』への信頼という大きな目で捉え、5年前に顧客データベースを統合した」と取り組みを説明した。

 トリップアドバイザーの牧野氏は、「デジタルには大量のデータを収集・分析する力はあるが、パーソナライズは苦手」と述べ、「オンラインとオフラインの棲み分け」を提案。旅行会社の窓口にはインターネットにはできない、1人ひとりの来客のニーズに合う商品の提供が可能であることを示すとともに、「リアル店舗をもつ旅行会社はOTAと競合するのではなく、オンとオフを上手く取り入れたカスタマージャーニーを描く必要がある」と指摘した。

 そのほか、大西氏は約3ヶ月間、旅行会社に出向した経験がある旨を語った上で「お客様のリアルな声を一番近くで聞けるのは、やはり旅行会社では」とコメント。沢登氏は、リクルートでも「スーモ」や「ゼクシィ」などのブランドがリアル店舗を持つ傾向にあることを伝え、「圧倒的に顧客との関係性を築くことができる」と強調した。

 とはいえ、今後のデジタルネイティブには「旅行会社のリアル店舗をどう使えばいいのかが分からない」という世代も出てくる。牧野氏は「そこに良い商品がある、と言うだけでなく、オフラインの使い方をどう伝えるかも課題では」と提言。山下氏は、ユーザーに選ばれる企業になるためには「新しい顧客層を視野に入れて顧客との関係性を築き、その上で購買プロセスにカスタマージャーニーをどう描いていくのかが勝負」と強調した。これからはマーケットの動きやニーズを捉え、マーケティングのあり方を見直していくことがリアル店舗をもつ旅行会社のテーマになっていきそうだ。