旅行会社が描く今後のカスタマージャーニーは-経営フォーラム

環境変化を受け、旅行会社は戦略見直しの時
今後のタビマエ・ナカ・アト需要を捕えるには

ローカライズと大規模リニューアル実施-トリアド

牧野氏  「カスタマージャーニーを常に意識してきた」と語るのは、トリップアドバイザー代表取締役の牧野友衛氏。かつて米国でIT企業に勤めていた牧野氏は、「日本の旅行業者はあまり顧客の話を聞かない印象を持った」という。牧野氏はあわせて「インターネットのサービスはすぐに新しいサービスに乗り換えられてしまう。継続して使ってもらうためにはユーザーの変化を捉え、ニーズを満たしてサービスに反映させていくのが基本」との見方を示した。

 2000年にスタートしたトリップアドバイザーは現在、世界の49の国と地域で毎月約5億人が利用。口コミの数は7億以上に上り、ある調査によれば訪日旅行者の情報源としては、タビマエでもタビナカでもトップ10の上位にランクインしているという。牧野氏は「ガイドブックや観光案内所も有効だが、トップ10のうち半分はネット(によるサービス)。タビナカでもネットによる情報の重要性を再確認している」と話した。

 また、トリップアドバイザーのサービスは基本的に世界共通だが、ユーザーの声を参考に一部でローカライズを実施しており、日本ではLINEのアカウントからもサインアップでき、地名から絞り込んで地図を表示できるようにするなど、日本人にとっての使いやすさを意識していることを説明。昨年11月には「タビマエのインスピレーションと旅程の作成が弱い」との反省から大規模なリニューアルを実施したことを伝え、カスタマージャーニーを意識したマーケティングの好例を示した。

新たな牽引役の若年男性に注目-じゃらん

沢登氏  訪日外国人の増加の勢いが止まらない一方で、「この10年で日本人が日本を旅行しなくなっている」と話すのは、リクルートライフスタイルでじゃらんリサーチセンターのセンター長を務める沢登次彦氏。「じゃらん宿泊旅行調査2018」を読み解くと、日本人の平均旅行回数は約3回と変わらないものの、宿泊を含む旅行の実施率はゆるやかに下降しており、12年間の調査においてはすべての層がマイナスになったという。

 特に実施率を下げているのが50歳から79歳までの男性で、同年代の女性や20歳から34歳までの女性も振るわない。しかし注目すべきは20歳から34歳までの男性(M1層)で、沢登氏は、特にミレニアル世代の男性を深掘りすると、かつて「草食系男子」と言われた層がこの7年間で大きく変化しているとの見方を示した。

 沢登氏はこれらの層について「情報発信した時のキャッチ率が高く、非常にアクティブ」と分析し、データからは「消費価値も高く、1人旅や親連れ旅が増えている傾向も見てとれる」と紹介。これまで旅行は若い女性が牽引していると認識されてきたが、再考を迫られそうだ。

 じゃらんリサーチは2030年の日本の観光を予測する「2030年 観光の未来需要予測研究」の結果も発表しており、それによると22年には延べ泊数で日本人と外国人が逆転し、30年の訪日外国人は政府がめざす6000万人に達する見込み。しかし「キャパシティが担保できている場合の試算なので、この点は引き続き課題」とも述べている。

 また、30年の日本はますます外国人旅行者があふれ、「知名度の高いブランド観光地がより発展するのに対し、非ブランド観光地は特定のターゲットを狙う特化型観光地になっていく」と予想。また、外国人旅行者が求める日本らしさと自由度の高さは、M1層の男性と共通する点があり、「この2つのマーケットは日本人が気づかなかった新たな資源を掘り起こしてくれる可能性が高い」と述べた。そして「重要なことは、それをどれだけ早くクロールし、地域の価値に変えて戦い方を決めていくか」と強調した。