顧客はクリスチャン-大阪・イスラエル専門旅行会社の新たな一手

第1種取得で受注型企画旅行に専念
てるみくらぶ問題が遠因に

HTCが入居するビルの入口  大阪市北浜のキリスト教関連団体が多く入居する雑居ビル「VIP関西センター」に、イスラエルに点在するキリスト教の聖地へのツアーを専門に取り扱う、ホーリーランドツーリストセンター(HTC)という旅行会社がある。国内人口の1%程度にとどまるキリスト教徒を顧客とする、非常にニッチなマーケットで事業を展開する珍しい旅行会社で、業界内でもその名を知る人は多くないだろう。

 しかし2002年の創立以来、そのスタンスを守り続けている同社が、昨年の秋には旅行業登録を第3種から第1種に変更し、日本旅行業協会(JATA)にも入会するなど、新たな動きを見せている。同社の事業や今後の展望などについて、今年で77歳になるという代表取締役社長の石田展久氏に詳しい話を聞いた。

-まずは、HTCの歴史について教えて下さい

石田展久氏(以下敬称略) 私は18歳でJTBに就職して42年間勤務したのち、定年退職して02年にHTCを立ち上げました。最初は旅行会社ではなく、イスラエルを訪れるクリスチャンに現地の情報を提供したり、語学留学の希望者を古巣のJTBに紹介するためのNPOとして設立したのですが、結局は数年後に、経験を活かしてクリスチャン向けにイスラエル聖地ツアーを提供する旅行会社に変更しました。

-取り扱っているツアーはどのようなものでしょうか

石田 知り合いの教会に参加者を紹介していただき、団長となる牧師を含めて15人から20人ぐらいの受注型企画旅行として催行します。参加者はやはりシニアが多く、85%ぐらいが60代以上です。短いツアーで7日間、長いものは12日間に及ぶので、現役世代にはなかなか参加しにくいと思います。宗派別では私と同じプロテスタントが7割、カトリックが2割、その他が1割です。宗教の研究に熱心な神道関係者を送客したこともあります。

 リピーター率が高く、牧師は英語を話せてイスラエルにも慣れた方が多いので、添乗員は同行せず、現地ではクリスチャンの日本人スルーガイドがお世話をします。添乗員が同行しない理由は、ノンクリスチャンでは難しい場合があるからで、クリスチャンの団長とガイドの間で存在感を要求されるとトラブルの素になりますし、添乗員にも気の毒です。

 イスラエルの地上コストは高いので、1人あたりの旅行代金は燃油費込みで35万円から45万円くらいします。航空会社はテルアビブ線を運航している大韓航空(KE)やキャセイパシフィック航空(CX)などを使い、隣国のヨルダンから開始する場合はエミレーツ航空(EK)でアンマンに入り、ペトラ遺跡などを訪れてから陸路でイスラエルに入ります。

 バチカンやスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラなど、他国の聖地を訪れるツアーを要望されることもありますが、スタッフが少ないのでイスラエルとその隣国に限定し、ヨルダン以外はパレスチナのベツレヘムやジェリコなどを周る程度です。イスラエルについては、小さな国ですが頻繁に新たな遺跡が発掘されるので、訪れるべき聖地は多いです。

-現在の事業規模はどれくらいですか

石田 近年の年間送客数は150人から200人程度で、あまり伸びてはいませんが、減ってもいません。ちなみに最初の2年間はゼロでした。米国同時多発テロ事件が起こった後で、イスラエル国内の状況も不安定でしたし、外務省もツアーの自粛を呼びかけて、日本人ガイドはほとんど帰国していました。それ以降は20人、40人と年々増えて現在に至ります。

 スタッフは事務担当の派遣社員が1人と、パートタイマーが時期によって1人か2人いるだけです。イスラエルは日本ではマイナーなデスティネーションですし、基本的には安全に旅行できても、中東情勢次第で需要が大きく減少します。また、10月から4月までの繁忙期以外は、暑さと航空券の高さで超閑散期になり、正社員を雇いにくいこともあります。その代わりに英語教師をしている息子や、大学生の孫が手伝ってくれます。家族もスタッフもみなクリスチャンです。