添乗員の「働き方改革」、ツアーに与える影響は?-TCSA事務局長に聞く
「時間外の上限規制」は添乗員不足に拍車か
若手添乗員の増加に向け業界全体で取り組みを
-課題とされている若手添乗員不足について、どのように取り組んでいますか
横尾 若手添乗員が辞める一番の理由は、収入の不安定さ。添乗員の仕事は時間外労働も多くハードだが、その割には収入が少ない。年間180日の添乗でも食べていけるような日当にベースを上げていかなければならないと感じている。添乗員の派遣料は年間を通して変わらないが、修学旅行が多い時期などの繁忙期には派遣料を上げるなどの工夫をしてもいいのではないか。
添乗員の日当は、旅行会社から派遣会社に支払われた派遣料の平均75%から80%。派遣会社は旅行会社に派遣料を上げてもらうよう働きかけるとともに、コスト削減により日当を上げるよう努力していく必要があると思う。
また、派遣会社のなかには、インバウンドツアーの添乗業務や、会議の運営など添乗業務以外の仕事を添乗員に紹介しながら雇用と収入の安定をはかる動きも出てきている。今後生き残るためには、派遣会社としても取り扱う職域を拡大していく必要があるだろう。
TCSAとしては、2年ほど前から添乗員と添乗員をめざす学生のコミュニケーションの場として「ツアコンカフェ」を東京と大坂で開催している。添乗員一人に対して5人程度の学生がつき、お茶を飲みながらざっくばらんに話をするもので、添乗員の生の声を聞けると学生からの評判も良い。今後も引き続き実施していきたい。
-添乗員の高齢化についてはいかがですか
横尾 今年度から2年間、厚生労働省所管の独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構からの受託事業として「高齢者雇用推進事業」に取り組む。添乗員は年を取るにつれて、欧州や南米などの遠方のデスティネーションの添乗が体力的に辛くなってくる。また、両親の介護などで長期間の海外添乗ができなくなるなどのさまざまな課題が生まれている。
高齢化する添乗員の知識や経験を活用してもらう方法の1つとして、インバウンドツアーの添乗が挙げられる。今年の1月に改正通訳案内士法が施行され、通訳案内士の資格がなくても有償で通訳案内業務ができるようになった。添乗員は語学力もあり、なによりお客様へのホスピタリティが高いので、十分活躍できるだろう。
-JATA会長の田川博己氏は旅行会社の原点の1つとして「添乗力」を挙げています
横尾 お客様が添乗員付きツアーを選ぶ一番の理由は、「何かあっても添乗員に頼れる」という安心感だと思う。訪問先の知識や語学力なども添乗力に含まれるが、非常事態でも慌てた様子を見せず、冷静に対応してお客様に安心してもらうことが添乗力として重要だろう。また、事故などの突発的な事象が発生した場合、落ち着いて関係各所に対応し、安否確認の状況を日本へ報告する危機管理能力も添乗力の1つだ。
加えて、ツアーのお客様が快適に旅を満喫できるよう、お客様たちの雰囲気を調整する能力やホスピタリティも添乗力。お客様に「またこの添乗員のツアーに参加したい」と思ってもらえる添乗員は、添乗力があると思う。
-最後に、旅行会社に対する要望があれば教えてください
横尾 事務局長に就任後、各地区の会員の連絡会に参加して感じたことは、旅行会社のなかには派遣会社と添乗員に「仕事を与えている」という意識を持つ人々がいるのではないか、ということ。添乗員のサービスがツアーの評価につながることを理解していただき、派遣会社と旅行会社が対等なパートナーとして、ともに業界を盛り上げていくようにしていきたい。
加えて、旅行会社には添乗員がお客様の個人情報を携帯しなくていい仕組みを作っていただきたい。海外添乗では添乗員がお客様の個人情報を紙で携帯するケースが多々あることから、添乗員が海外などで強盗やスリなどにねらわれやすくなっている。事件を防止するためにも、iPadやスマートフォンでパスワードを付けたデータを持ち歩くようにするなど、対策をしていただきたい。
-ありがとうございました