添乗員の「働き方改革」、ツアーに与える影響は?-TCSA事務局長に聞く
「時間外の上限規制」は添乗員不足に拍車か
若手添乗員の増加に向け業界全体で取り組みを
-政府が働き方改革に取り組んでいますが、添乗業界への影響は
横尾 「働き方改革」は年休の取得や時間外労働の軽減など、旅行業界にとって多くのメリットがあり歓迎しているが、添乗業界については懸念が残る。特に「時間外の上限規制」は、派遣添乗会社が旅行会社に安定的に添乗員をアサインできなくなり、添乗員不足をまねく可能性がある。
これまで政府は繁忙期などの臨時的かつ特別な事情がある場合、時間外労働の上限は設けていなかった。しかし、今回の働き方改革による労働基準法などの見直しで、時間外労働は年720時間、休日労働を含め複数月の平均80時間、単月100時間未満が上限となった。
添乗業務の場合、早朝出発や深夜到着などはよくあることで、夜遅くまでエンターテイメントを見学するようといったような時間外労働が発生しやすい。例えばある8日間の欧州ツアーの添乗では、休日労働を含めると40時間程度の時間外労働が発生する計算になる。このため月に2度欧州ツアーに参加すると、「働きたいけど時間外の規制に引っかかるので仕事を受けることができない」という添乗員が出てくることになりかねない。
もちろん添乗員の時間外の把握と雇用管理をするのは派遣会社の仕事だが、旅行会社にもいろいろと工夫をしてもらいたい。時間外労働が発生しにくいようなツアーを作るのはツアーの魅力が損なわれることに繋がるので本末転倒だとは思うが、ツアーを企画する際、可能な範囲で時間外労働を少なくする行程を検討することも必要になってくると思う。
-いわゆる「みなし労働」問題についてはどのようにお考えですか
横尾 海外旅行の添乗員の場合、労働時間の算定が困難であるため、過去には一定時間働いたものとみなす「みなし労働時間制」が多くの会社で採用されていた。しかし、2014年に最高裁判所が阪急トラベルサポートに対し、ツアーは旅程通り催行されるため労働時間の算定が困難とは認め難い、という判決を出したことで、流れが変わった。TCSAでは判決を受けて、「添乗業務における労働時間管理のお願い」という書面を日本旅行業協会(JATA)の会員に発出し、その後も時間管理の導入を呼びかけている。
ただし、ガチガチに時間管理をすることが必ずしも添乗員のメリットになるわけではない。例えば1週間のツアーで成田に朝帰着した場合、みなし労働時間制では最終日も添乗員は1日働いたとみなされる。みなし労働時間制の設定や内容について、労使双方で理解されているのであれば否定されるべきものではないとも思う。
旅行会社によっては、時間管理と募集型企画旅行の添乗員に時間管理を導入し、受注型企画旅行の添乗員にはみなし労働時間制を採用するなど、2つの方式を併用している会社もある。また、時間管理がしにくい大型団体のMICEの場合、例えば朝8時から夜8時前12時間働き、休憩時間の1時間を引いた11時間はみなし労働にし、その他は時間外手当をつける、といった対応をとっている会社もある。