北方領土ツアー、「旅券・ビザなし」で交渉中、来夏目標に
日本旅行業協会(JATA)は11月9日の定例会見で、JATA事務局1名と会員会社の6名が参加した、10月26日から31日までの「北方調査団現地視察」について報告した。調査団の派遣は6月に続いて2回目。参加したJATA海外旅行推進部担当副部長の飯田祐二氏は、今回も国後島、択捉島、色丹島の3島を訪問し、現地の関係者とパッケージツアーの造成に向けた意見交換をおこなったことを説明し、「日露政府の交渉次第だが、旅行業界としては来年6月から9月のベストシーズンの商品化をめざしたい」と意欲を示した。交渉については「パスポート無し、ビザなしが大前提。外務省がロシア側と進めている」という。
今回の視察は、9月に開催された日露首脳会談で「北方領土における共同経済活動」の優先項目と位置づけられた「島の特性に応じたツアーの開発」など5分野のプロジェクトの事前調査が目的。視察団員数は5分野の関連省庁・企業などで計54名に上った。このうち観光分野は、JTB首都圏、阪急交通社、クラブツーリズム、ANAセールス、アルパイン・ツアー・サービス、ワールド航空サービスの6名とJATA1名に加えて、観光庁審議官の瓦林康人氏など政府関係者が3名、北海道の交通関連企業や観光協会から5名の計15名が参加した。
視察団は、道東の根室港から日本人が交流目的などで北方領土を訪れる際に用いる客船「えとぴりか」で渡航。国後島では泊山ハイキングコースを、択捉島では地熱発電所やバンナチキ温泉などを、色丹半島ではイネモシリ湾や日本人墓地などを訪れた。飯田氏によれば、旅行会社の参加者からは「自然が残っており、トレッキングへの関心が高い旅行者に適している」と評価する声が挙がったほか、「北方領土への注目の高さで集客できる」「現地での島民との交流やイベントなどをツアーに盛り込めないか」などの意見が聞かれたという。
ツアーは各社が個別に催行するが、移動と一部の宿泊にはいずれも「えとぴりか」を利用する予定。飯田氏は理由として、択捉島や国後島に空港はあるものの設備面で課題があること、各島に団体を収容できる宿泊施設が少ないことなどを挙げた。また、道東地域からの要望も踏まえて、同地の観光と組み合わせたコースとし、国内旅行の添乗員が同行することを想定しているという。今回訪問しなかった歯舞諸島については「状況が良くわからない。組み込むとしても沖合から眺めるだけになるのでは」と語った。
飯田氏はそのほか、ツアーを造成する際には地上手配などの関係から、既存の国内旅行業約款を利用することが難しいことを説明。観光庁と検討を進めていることを伝えた。また、旅行者が加入する保険についても同様の課題があるとし、保険会社との検討が必要になることを説明した。
なお、北方領土については、1992年から日本国民と北方四島の住民の交流をはかる「四島交流」や、元島民などによる墓参を目的とした訪問がビザ無しでおこなわれている。外務省によれば、このうち「四島交流」については、これまでに双方向で計550回の訪問団に2万2998名が参加しているという。