年頭所感(1)訪日旅行は量から質の時代へ、海外旅行の復活も

▽日本外航客船協会会長 小林求氏

 急速に成長するアジアの経済を背景に、世界のクルーズ環境は大きな変貌を遂げている。日本では、クルーズを利用する訪日外国人旅行者の大幅な増加や、外国船の日本発着クルーズの増発を受け、全国でクルーズへの関心や期待がかつてないほど高まっている。日本のクルーズ人口は2013年以降、年間23万人を超える過去最高水準で推移している。

 昨年の日本船は「飛鳥II」や「ぱしふぃっくびいなす」の世界一周クルーズ、「にっぽん丸」のフライ&クルーズ商品の拡充など、意欲的な取り組みが目立った。また、旅行会社は日本船に加えて外国船を相次いでチャーターするなど、旅行商品としてのクルーズの認知度を高め、市場の裾野を一層広げるよう取り組んだ。今年も意欲的な取り組みが続き、クルーズへの関心がさらに高まることを期待する。

 また、昨年7月にはいわゆる「30日ルール」が「60日ルール」に変更されたことで、今年は今まで以上に、日本船によるバラエティに富んだクルーズ商品の企画・造成が可能になった。日本船クルーズが消費者にとってより参加しやすく、身近に楽しめるものになると期待できる。

 当協会では、日本のクルーズ事業の一層の発展と振興をはかり、クルーズの魅力の認知度向上のために実施する活動について、情報発信と提供を強化していく。クルーズ客船見学会やセミナーのさらなる全国展開により、新しいクルーズファンの創出に注力する。また、クルーズアドバイザー認定制度の有資格者1万人時代に向け、制度の一層の円滑な運用をはかる。「クルーズ・オブ・ザ・イヤー」の表彰や、クルーズキャンペーンを通じ、1人でも多くの皆様にクルーズに関心を持っていただけるよう一層努力する。

 一方、国際定期旅客船は、近隣諸国との関係悪化やフェリー海難事故などから乗船客の減少傾向に歯止めがかからず、依然として厳しい環境だ。近隣諸国との間を高速で結ぶ国際フェリーは身近な旅行手段であり、物流の担い手としての役割も果たしている。一刻も早い事業環境の改善が強く望まれる。


▽ジェイティービー代表取締役社長 高橋広行氏(※高橋氏の高はハシゴ高)

 2016年は、大手企業を中心にベースアップなどの動きが見られていることから、市場は引き続き堅調に伸びていくと考えられるので、さらなる国内事業の進化とグローバル事業の成長を推進する。国内旅行は地方創生によって後押しされているので、地域の活性化と市場の拡大をはかる。グローバル事業でも投資を促進し、事業拡大をはかっていく。

 国内旅行では北海道新幹線の開業が予定されているため、北海道と東北への需要が拡大すると考えられ、新たな旅のルートや、訪日外国人旅行者に対する提案をおこなう良い機会となる。また、伊勢志摩サミットの開催、東京ディズニーシーとユニバーサル・スタジオ・ジャパンの開業15周年、日本最大級の「京都鉄道博物館」のオープンなどによっても、国内旅行は堅調に推移すると考える。

 訪日外国人旅行者数については、昨年よりも伸び率は鈍化すると思うが、約400万人増の2350万人に増えると見込んでいる。引き続きインターネット販売の強化、地域の魅力を堪能できる商品の造成などを推進していく。

 今年はリオデジャネイロでオリンピックが開催されるが、閉会式では「次は東京」とアナウンスされ、世界の注目が日本と東京に集中するので、当社もスポーツツーリズムをさらに強化し、交流拡大の一翼を担いたい。ここ数年低迷を続けている海外旅行に対しては、業界を挙げて復活に向けた取り組みを進める。


▽KNT-CTホールディングス代表取締役社長 戸川和良氏

 KNT-CTホールディングスが誕生して早3年が経過した。旅行業界を取り巻く環境は大きく変化してきたが、そのなかで我々はグループ各社の自立経営とシナジ―を追い求めてきた。自立経営については、各社が継続的な革新による収益力の維持と向上に努めた。シナジーについては商品の相互販売や共同イベントの実施など、着実に効果が表れつつある。クラブツーリズムと近畿日本ツーリスト個人旅行の連携も進んでいる。

 今年は12月決算または9月決算だった決算月を、3月に変更する。決算期の統一や決算早期化によるIRの強化などが目的で、各社の経理業務の標準化と効率化をはかる。また、4月からは新たな中期経営計画で、新たなフィールドへのチャレンジを開始する。従前の手法を踏襲していけば売上げは逓減していくので、さらなる成長の柱として期待する領域へシフトしていく必要がある。成長領域は訪日旅行事業、地域誘客・交流事業、スポーツ事業の3分野で、これらをあわせた需要の開発と取込みを進めなくてはいけない。

 今後の事業運営にあたってまず留意すべきことは、コンプライアンスの重要性だ。不祥事を防止するために、社員の倫理観の醸成、リスクを最小限にする仕組みの構築、風通しの良い企業風土の形成など、取り組むべき課題は多い。また、顧客の信頼度と満足度こそが会社を成長させる源であることにも留意しなくてはいけない。

 昨年は近畿日本ツーリストの誕生60周年だった。「野武士」と称された先輩方は、時には無謀とも思える目標を、幾多の困難を乗り越えて達成してきた。現状に満足することなく、飽くなき探求心を持ち、相応の戦略を立てて実行に移す。そういった進取の精神のDNAが当社グループには受け継がれている。そのDNAを大切に育んでいきたい。


▽楽天執行役員トラベル事業長 山本考伸氏

 2016年も引き続き、ビッグデータを活用したインバウンドと地方送客の新規のお客様開拓およびリピート化を、活動のキーワードと捉える。昨年の成功を一過性のものとせず、継続させる取り組みを確立させることに尽力していきたい。旅行需要の喚起に向けては「朝ごはんフェスティバル」など、ユニークな切り口の企画の実施と積極的な国内外への情報発信に努める。

 「クチコミ評価の高いお客様の旅行リピート率は高い」という当社のデータが示すように、1回の旅行満足度を極限にまで高めることが、リピート率向上の最良の方法であると考えている。当社としては旅行の「予約プラットフォーム」から、お客様と最も満足していただける宿泊施設とを結ぶ「マッチングプラットフォーム」への進化を推進していく。

 具体的には、お客様の属性や予約傾向などをもとに、最適な宿泊施設の情報を提供するベストマッチングをはかり、満足度の向上によるリピート率を高めていく。当社独自の強みである、各宿泊施設の担当者「ITC(インターネットトラベルコンサルタント)」との連携を強化して、さらなる魅力を発信していくことに加え、「マッチングプラットフォーム」としての進化を遂げることで、さらなる地域活性化をはかる。これを実現することは、観光が我が国の基幹産業となるためのターニングポイントになると考えている。