年頭所感(1)訪日旅行は量から質の時代へ、海外旅行の復活も
観光庁や日本政府観光局(JNTO)、日本旅行業協会(JATA)などの業界団体、大手旅行会社や航空会社のトップによる、年頭所感および年頭の挨拶が出揃った。2015年は訪日外国人旅行者数が2000万人目前にまで増加するなど訪日旅行の盛り上がりに湧いたが、今年は伸び率の落ち着きも予想されることから、それぞれが「量」だけではなく「質」も求める新たなステージをめざす考えを表明。出国者数のさらなる低迷が見られた海外旅行については各者が改めて回復に向けて奮起し、JATA会長の田川博己氏は、リオデジャネイロオリンピックの開催などが控える今年を「海外旅行復活の年」と捉え、需要喚起と市場創造に取り組むとした。それぞれの要旨を紹介する。
※旅行会社の順序は観光庁による2015年度上期主要旅行会社49社の総旅行取扱額順
▽観光庁長官 田村明比古氏
2015年は訪日外国人旅行者数が過去最大の1900万人台に達し、消費額については3兆円を大きく超える勢いとなるなど、我が国の観光にとって飛躍の年となった。しかし旅行者が一気に増加したことで、今まで見えてこなかった大都市のホテル不足、地方の受入環境整備、CIQの強化、旅館の外国人対応、通訳ガイドの育成など、さまざまな課題が浮き彫りになってきた。
また、日本国内には過疎化が進行している地域もある。地域を活性化させるためには、外国人旅行者の誘致や日本人の国内旅行の活性化により、交流人口を増加させることがますます重要になっている。
宿泊業などにおける経営効率化や人材育成など、観光関連産業の構造改革も急務で、これらの課題も含めて、総理を議長とする「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」で、次の時代の新たな目標や必要な対応の検討をおこなっている。世界に誇るべき魅力あふれる国や社会を作りたいと考えており、今年の3月末までに結論を得る予定だ。
16年は新たなビジョンによる目標に向かって観光関連産業とも連携し、観光立国における新たなステージのスタートとなる一歩を踏みしめたい。訪日旅行は、中国や東南アジア諸国などで大幅に増加している中間所得層に対して、今まで以上に的確にアプローチすることでさらに拡大が可能だ。国際会議などのMICEについても、誘致と開催に向けた体制の強化で、新たなビジネスやイノベーションの機会の創出につなげることができると考えている。
▽日本政府観光局(JNTO)理事長 松山良一氏
2015年、JNTOは訪日プロモーション事業の実施主体として新たなスタートを切った。海外14事務所のネットワークを活かし、事業の企画から実施までをJNTOが一体的におこなうこととなり、我々にとって大きな節目の年となった。
今年も海外事務所を中心とした事業の企画と実施により、マーケティングの高度化をはかりつつ、現地目線に立った効果的なプロモーション活動を実施していく。さらに、コンサルティングなどを通じ、広域観光周遊ルートの形成やプロモーションを支援し、全国への誘客に取り組むことにより、地方創生に対し一層貢献する。また、受入環境の整備・向上の支援、「観光の稼ぐ力」の増進を通じて「質の高い観光」の実現にも努めていく。
受入環境整備・向上支援の分野では、全国の認定外国人観光案内所のネットワークの拡大と質的向上をはかる。あわせて交通や宿泊、通信環境についての情報発信や、サービスの充実化に向けた関係者への働きかけに取り組み、旅行者の満足度の向上に努めていく。
MICEに関しては今年も引き続き、各都市やコンベンション推進機関、会議・宿泊施設、MICE誘致アンバサダーなどの皆様の協力を仰ぎ、アジアで1位の国際会議開催件数を維持するよう取り組みを継続する。日本社会全体の大きな期待に応えるべく、国、地方自治体、民間企業などの関係者の皆様と、これまで以上にインバウンドの拡大に向け全力で取り組む。
▽日本旅行業協会(JATA)会長 田川博己氏
今年はブラジルのリオデジャネイロでオリンピックとパラリンピックが開催され、閉会式では次回の開催地として「TOKYO、JAPAN」とコールされる。日本が世界中から注目され、ツーリズムの重要性がますます高まるとともに、2020年以降の日本のツーリズムを考えていく重要な年となる。
JATAは16年を「海外旅行復活の年」として、海外渡航者2000万人の達成に向けた需要喚起と市場創造に取り組み、双方向の交流拡大に努めていく。地域との連携を強化して国内旅行市場の活性化を推進するとともに、東北へは人の交流を通じた復興支援活動を実施する。インバウンドは2000万人の次のステージに向け、量の拡大だけでなく質の向上や旅行者への「安心・安全の旅の提供」に向けて取り組む。昨年に発表した海外・国内・訪日旅行による三位一体の「JATA政策提言2015」の施策を、1つひとつ実行していく。
昨年、日本は国連世界観光機関(UNWTO)の理事国入りを果たした。JATAとしても、民の立場から国際ツーリズムのなかで日本のリーダーシップを発揮するため、観光を通じた文化遺産の保護育成に取り組むなど、観光と文化の両立をめざすUNWTOの活動に参画していく。
JATAの活動の象徴である「ツーリズムEXPOジャパン」も、ホップ・ステップ・ジャンプの「ジャンプ」の年を迎える。BtoBとBtoCの両面で、ツーリズムの持つ力と可能性を知らしめる大きな舞台であり、日本のツーリズムのプレゼンスを国内外に発信していきたい。
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