多様化するシニア-現在~次の世代のマーケティング、JTBFシンポジウム
他の産業よりも早い段階でシニアに注目し、マーケティングを開始した旅行業界だが、このところその議論は鎮静化している。しかし、2015年には団塊世代が65歳定年となり、その先には新人類や団塊ジュニアなど次の世代のシニア化も控える。公益財団法人日本交通公社(JTBF)主任研究員の黒須宏志氏は「今こそ議論するタイミング」と注目を促す。7月下旬の海外旅行動向シンポジウム第2部では「団塊世代後のシニア旅行マーケティング」をテーマに、顕在化したシニアの実態と消費動向の変遷から、今後のシニアマーケットを見るキーワードが示された。
・パネリスト
三菱総合研究所・事業予測情報センター主任研究員 高橋寿夫氏
消費研究家 三浦展氏
・コーディネーター
JTBF主任研究員 黒須宏志氏
団塊世代の本当の姿
団塊世代の60歳定年に向けて行なわれたさまざまなマーケティングは、あまりヒットしなかったというのが実感するところだろう。特に、「アクティブシニア」は、定年退職後の趣味の増加による消費拡大を期待したものだったが、高橋氏によると、現在の団塊世代の就業率は54%で実際は仕事を続ける人が多く、完全リタイアとはならなかった。
さらにアクティブシニアは、これまでしていなかったスポーツなどの趣味を急に始めるといった姿がイメージされていたが、黒須氏は「緩やかに変わっていくのが通例で、そういう(革新的な)客層は一部。“アクティブシニア”という言葉にミスリードされてしまったのでは」と顧みる。
三浦氏は団塊世代を読み解くにあたり、「量が大きいために質がわかりにくい世代」と説明。例えば、性質的に保守と革新に分けた場合、革新的な人の割合が5%増えるとその方が目立つが、残りの85%が保守的だとすればその数の方が圧倒的に多い。「量的なマジックで市場が変わっているのか、定性で変わっているのか見極めないといけない」と続ける。
しかし高橋氏は「今度は花開くものがある」と明るい展望を話す。2012年に実施した団塊世代に対する同社の調査をもとに、65歳での退職希望者が41%増え、リタイア層が全体の64%に拡大すると予測。就業意欲のある36%のうち34%が、「働いても、本人や家族の時間を優先する」と回答している。一方、貯蓄に対しては「今後は自分が楽しむために使ってもいい」とし、「食費や教養、娯楽費」を増やし、「貯蓄、教育費、家賃」が減るとする回答が多い。そもそも団塊世代の貯蓄目的の30%が、「旅行や自動車などのレジャー・趣味」だという。
高橋氏は「家族や仲間と過ごす時間が増え、今までと違う生活をすると、消費の中身が変わってくる」と指摘。ただし、「新しいことを始めるのは少なく、今までにしたことがあるものを続ける意向の方が大きい」とし、「ポイントは『何をやるか』ではなく、『どういう風にするか』。それに対してどういう風にお金を払ってもらうかである」とシニア消費を取り込むための考え方を提示した。