トップインタビュー:駐日ジンバブエ大使 スチュアート・コンバーバッハ氏
ワールドカップを契機に観光促進−
観光専門の担当者を日本に置く
ジンバブエは今年から、日本でのプロモーション展開に乗り出す。現在、南部アフリカ各国では、2010年に開催される南アフリカでのサッカー・ワールドカップが観光振興の切り口になるとして、日本からの訪問者数増加に期待を寄せている。特に南部アフリカ周遊ツアーのハイライトとなる、ビクトリア・フォールズに接する国の一つ、ジンバブエは新たな観光素材を打ち出し、将来的には日本に観光専門担当者を置くことも視野を入れる。駐日ジンバブエ大使のスチュアート・H・コンバーバッハ氏に観光客誘致に向けた考えを聞いた。(聞き手:弊紙編集長 鈴木次郎)
―現在の日本からの訪問者の動向は
スチュアート・H・コンバーバッハ氏(以下、コンバーバッハ) 訪問者の多くはパッケージツアーで、ビクトリア・フォールズを訪れる。訪問者数は増えてきており、非常にうれしいことだ。私自身、何度も訪れたことがあり、いつも大自然が放つエネルギーをもらって帰ってくる。訪れればこの壮大さを、十分に堪能していただけるだろう。
―ビクトリア・フォールズ以外でプロモーションしたいデスティネーションは
コンバーバッハ ビクトリア・フォールズは大きなアイコンだ。ただし、これに集中するだけでなく、今後は「グレート・ジンバブエ・モニュメント」など歴史、文化遺産を見ていただきたい。このグレート・ジンバブエ・モニュメントは概ね、14世紀ごろに造られたと言われているが、正確にいつ建てられたのかわかっていないミステリーな部分も魅力に変えられるのではないだろうか。この遺産の近隣にはホテルが整備されているが、空港が無いことから、快適に移動をしていただく方法は課題だ。
現在、この地を訪れる人の多くは欧米からの旅行者だが、日本人は文化に対して欧米人よりも興味・関心が高いと思っている。ぜひ、より多くの日本の方々に訪れていただきたい。私も日本の寺院を訪問したりするが、言葉はわからなくともその場に漂う雰囲気から畏敬の念を抱くこともある。こうした空気も旅行者には楽しんでいただけるだろう。
―訪問者増加に向けた具体的な目標は
コンバーバッハ 目標としては人数を増やすことだが、まずは1泊のところを2泊、2泊のところを3泊へと滞在日数を伸ばすことが現実的だ。旅行会社が造成するパッケージツアーはジンバブエ以外に南アフリカ、ボツワナなどを周遊するツアーが主流なので、ジンバブエでの滞在日数が増える努力をしていきたい。
良いきっかけとなるのは、NHKでグレート・ジンバブエ・モニュメントが取材されており、これが放映されることだろう(編集部注:NHKの番組は「夢の古代文明紀行 謎の巨大遺跡50」の中で紹介。番組は3月31日、4月1日に放映、5月4日、5日に再放送された)。また、6月からセミナーを開催する予定で、ジンバブエからジンバブエ航空をはじめとする観光関係者が来日する。その後にFAMツアーを開催し、現地への理解を深めてもらい、消費者には9月のJATA旅行博に出展する計画だ。
―2010年には南アフリカでワールドカップが開催される。昨年、私が南アフリカを訪れた際にアフリカ各地への観光客の増加という側面が盛んに議論されていた
コンバーバッハ サッカー・ワールドカップを契機に、多くの方々が南アフリカに目を向け、さらに実際に訪れていただけるだろう。この機会を活用し、南アフリカだけでなく南部アフリカの各地に足を伸ばしていただきたい。
14ヶ国で構成する南部アフリカ開発共同体「Southern African Development Community(SADC)」でも、各種分野で共同の取り組みを進めている)。このうち、日本に大使館を置く11ヶ国で日本からの観光誘致に向け、基本計画を作成。共同して活動を展開していくことで一致しており、日本でも各国大使と常に話し合いを持っている。現地でも、活動は盛んになりつつある。例えば、飛行機を利用する旅行者の増加に備えた空港施設のアップグレードはそのひとつだ。
(参考)南部アフリカ開発共同体(SADC)外務省のサイト
―大使も指摘されたが、移動に時間がかかることは、訪問者の精神的な壁でもある
コンバーバッハ 日本から南部アフリカへの渡航需要の増加に向けて、国土交通省の観光部門とも意見交換をした。先日は、航空機の乗り継ぎが話題に上った。直行便は大きな解決策であるが、日本企業が南部アフリカへ就航することは、今のところ無いだろう。ただし、チャーター便の運用で改善が図られるとも聞いている。こうした一歩一歩の前進が大切だろう。
観光局の担当者は現在、中国に常駐している。ただし、私としては日本にも観光の担当者を常駐させたい。観光局となるか、大使館内での担当者になるか、決まってはいない。今年の活動でどのような形になるか流動的であるが、来年には常駐の観光担当者が来日するだろう。
―日本人は概して治安に対して敏感に反応する。また、世界では観光警察がいる例もある
コンバーバッハ 首都ハラレには、確かに危ない場所がある。ただし、この地域は観光に関連して行く場所ではない。観光地の安全状況は概して良いだろう。観光警察というシステムは無いが、ホテルではプライベート・セキュリティを雇う場合も多く、国立公園、ゲーム・リザーブには公園独自の監理官が野生動物の対策を含めて、警察と同様に治安面から安全面までの役割を果たしている。「安全」がなければ、観光客の増加は望めないことも十分に理解している。
―観光促進の上で、近年は保護やサステイナブル(持続可能性)が重視されている
コンバーバッハ アフリカでは1980年代にケニア、ウガンダなどでマス・ツーリズムに成功した実績があった。その当時、ジンバブエでも「マス・ツーリズム」へ舵を切ろうという議論があったことも事実だ。結果的には、政府や観光局はそうした政策を選ばなかった。今でも、部屋のカーテンを開けると、目の前にビクトリア・フォールズが見えるホテルを建設したいという話はあるが、全て断っている。こうした政策によって、今でも豊かな自然を体験していただける。これはわれわれの大きな財産だ。
―ありがとうございました。
<過去のトップインタビューはこちら>
観光専門の担当者を日本に置く
ジンバブエは今年から、日本でのプロモーション展開に乗り出す。現在、南部アフリカ各国では、2010年に開催される南アフリカでのサッカー・ワールドカップが観光振興の切り口になるとして、日本からの訪問者数増加に期待を寄せている。特に南部アフリカ周遊ツアーのハイライトとなる、ビクトリア・フォールズに接する国の一つ、ジンバブエは新たな観光素材を打ち出し、将来的には日本に観光専門担当者を置くことも視野を入れる。駐日ジンバブエ大使のスチュアート・H・コンバーバッハ氏に観光客誘致に向けた考えを聞いた。(聞き手:弊紙編集長 鈴木次郎)
―現在の日本からの訪問者の動向は
スチュアート・H・コンバーバッハ氏(以下、コンバーバッハ) 訪問者の多くはパッケージツアーで、ビクトリア・フォールズを訪れる。訪問者数は増えてきており、非常にうれしいことだ。私自身、何度も訪れたことがあり、いつも大自然が放つエネルギーをもらって帰ってくる。訪れればこの壮大さを、十分に堪能していただけるだろう。
―ビクトリア・フォールズ以外でプロモーションしたいデスティネーションは
コンバーバッハ ビクトリア・フォールズは大きなアイコンだ。ただし、これに集中するだけでなく、今後は「グレート・ジンバブエ・モニュメント」など歴史、文化遺産を見ていただきたい。このグレート・ジンバブエ・モニュメントは概ね、14世紀ごろに造られたと言われているが、正確にいつ建てられたのかわかっていないミステリーな部分も魅力に変えられるのではないだろうか。この遺産の近隣にはホテルが整備されているが、空港が無いことから、快適に移動をしていただく方法は課題だ。
現在、この地を訪れる人の多くは欧米からの旅行者だが、日本人は文化に対して欧米人よりも興味・関心が高いと思っている。ぜひ、より多くの日本の方々に訪れていただきたい。私も日本の寺院を訪問したりするが、言葉はわからなくともその場に漂う雰囲気から畏敬の念を抱くこともある。こうした空気も旅行者には楽しんでいただけるだろう。
―訪問者増加に向けた具体的な目標は
コンバーバッハ 目標としては人数を増やすことだが、まずは1泊のところを2泊、2泊のところを3泊へと滞在日数を伸ばすことが現実的だ。旅行会社が造成するパッケージツアーはジンバブエ以外に南アフリカ、ボツワナなどを周遊するツアーが主流なので、ジンバブエでの滞在日数が増える努力をしていきたい。
良いきっかけとなるのは、NHKでグレート・ジンバブエ・モニュメントが取材されており、これが放映されることだろう(編集部注:NHKの番組は「夢の古代文明紀行 謎の巨大遺跡50」の中で紹介。番組は3月31日、4月1日に放映、5月4日、5日に再放送された)。また、6月からセミナーを開催する予定で、ジンバブエからジンバブエ航空をはじめとする観光関係者が来日する。その後にFAMツアーを開催し、現地への理解を深めてもらい、消費者には9月のJATA旅行博に出展する計画だ。
―2010年には南アフリカでワールドカップが開催される。昨年、私が南アフリカを訪れた際にアフリカ各地への観光客の増加という側面が盛んに議論されていた
コンバーバッハ サッカー・ワールドカップを契機に、多くの方々が南アフリカに目を向け、さらに実際に訪れていただけるだろう。この機会を活用し、南アフリカだけでなく南部アフリカの各地に足を伸ばしていただきたい。
14ヶ国で構成する南部アフリカ開発共同体「Southern African Development Community(SADC)」でも、各種分野で共同の取り組みを進めている)。このうち、日本に大使館を置く11ヶ国で日本からの観光誘致に向け、基本計画を作成。共同して活動を展開していくことで一致しており、日本でも各国大使と常に話し合いを持っている。現地でも、活動は盛んになりつつある。例えば、飛行機を利用する旅行者の増加に備えた空港施設のアップグレードはそのひとつだ。
(参考)南部アフリカ開発共同体(SADC)外務省のサイト
―大使も指摘されたが、移動に時間がかかることは、訪問者の精神的な壁でもある
コンバーバッハ 日本から南部アフリカへの渡航需要の増加に向けて、国土交通省の観光部門とも意見交換をした。先日は、航空機の乗り継ぎが話題に上った。直行便は大きな解決策であるが、日本企業が南部アフリカへ就航することは、今のところ無いだろう。ただし、チャーター便の運用で改善が図られるとも聞いている。こうした一歩一歩の前進が大切だろう。
観光局の担当者は現在、中国に常駐している。ただし、私としては日本にも観光の担当者を常駐させたい。観光局となるか、大使館内での担当者になるか、決まってはいない。今年の活動でどのような形になるか流動的であるが、来年には常駐の観光担当者が来日するだろう。
―日本人は概して治安に対して敏感に反応する。また、世界では観光警察がいる例もある
コンバーバッハ 首都ハラレには、確かに危ない場所がある。ただし、この地域は観光に関連して行く場所ではない。観光地の安全状況は概して良いだろう。観光警察というシステムは無いが、ホテルではプライベート・セキュリティを雇う場合も多く、国立公園、ゲーム・リザーブには公園独自の監理官が野生動物の対策を含めて、警察と同様に治安面から安全面までの役割を果たしている。「安全」がなければ、観光客の増加は望めないことも十分に理解している。
―観光促進の上で、近年は保護やサステイナブル(持続可能性)が重視されている
コンバーバッハ アフリカでは1980年代にケニア、ウガンダなどでマス・ツーリズムに成功した実績があった。その当時、ジンバブエでも「マス・ツーリズム」へ舵を切ろうという議論があったことも事実だ。結果的には、政府や観光局はそうした政策を選ばなかった。今でも、部屋のカーテンを開けると、目の前にビクトリア・フォールズが見えるホテルを建設したいという話はあるが、全て断っている。こうした政策によって、今でも豊かな自然を体験していただける。これはわれわれの大きな財産だ。
―ありがとうございました。
<過去のトップインタビューはこちら>