「ふるさと住民」は旅行会社の新市場になるか 日本旅行、楽天と「寄付・来訪・地域活動・再訪」の循環構築へ

  • 2026年8月18日

自治体の実証から浮かぶ「旅行会社の仕事」

 首長サミットで示された自治体の事例からは、制度を実際に運用する難しさも浮き彫りになった。

 北海道上士幌町では、農業や観光業などの担い手不足を背景に、11件の担い手活動を用意。町内の商工事業者196社、農家135戸、宿泊施設11施設にヒアリングやアンケートを行い、受け入れ体制づくりを進めている。7月から活動実績の記録も先行して始めた。一方、課題には、担い手活動のさらなる拡充、地域事業者や宿泊施設との協力、交通支援、プレミアム登録者への支援策、活動中の保険などを挙げた。

北海道上士幌町の「ふるさと住民」関連ページイメージ。担い手活動や地域への来訪につながる情報を紹介する

 山梨県小菅村では、既存の関係人口施策である「1/2村民」制度の登録者が4500人に達し、そのうち年間6回以上訪れるコア層は473人に上る。今回、森林整備や地域事業者、伝統文化に関わる活動を地域団体・事業者主体で実施し、役場は参加者管理や保険などを支える体制へ移行しようとしている。ただ、担い手活動を継続的に調整する「コーディネーター」が定まらず、現在は役場職員の調整力に依存していることを最大の課題に挙げた。

 徳島県鳴門市の事例は、関係人口が実際の地域の担い手へ転換する可能性を示す。同市がおてつたびと進める取り組みでは、3年間で127人が参加し、延べ活動日数は1933日、受け入れ事業所は26カ所に拡大した。参加希望は募集人数の約5倍に達し、リピーターの中には市を介さず農家と直接連絡を取り、繁忙期に再訪する人も生まれている。一方、市職員がオリエンテーション、送迎、滞在中のフォローなどを担っており、民間事業者と組んだ持続可能な受け入れ体制が課題になっている。

 これらは、そのまま旅行会社の事業機会とも重なる。活動の造成、宿泊先の確保、移動手段の手配、安全管理、保険、参加者管理、地域事業者との調整、現地運営、次回参加の案内――。ふるさと住民を増やすには、「人を呼ぶ」だけではなく、地域側でそれを受け止める仕組みが必要になるからだ。

「登録者数」を競う制度にしないために

 一方、制度が自治体間の新たな競争を生む懸念もある。

 鳴門市の泉理彦市長は、自治体が交通費や宿泊費などの支援を競い合えば、「過剰なサポート施策の競争」になりかねないと指摘した。 登録者を獲得するためのインセンティブ競争になれば、ふるさと納税で起きた返礼品競争と同様、制度本来の目的である担い手確保から離れる恐れもある。

 また、参加者が増えれば増えるほど、地域側の負担が増す可能性もある。活動の説明や指導、安全管理、宿泊、送迎、参加後のフォローを誰が担うのか。小規模自治体ほど行政職員だけで継続するのは難しい。

 制度を旅行市場として成立させるうえでも、重要なのは登録者数そのものではなく、「実際に何人が活動し、何回戻り、地域にどのような価値を残したか」になりそうだ。

旅行会社は「旅を売る」から「関係を運営する」へ

 ふるさと住民登録制度によって旅行会社に生まれる新市場の本質は、単なる国内旅行需要の上積みではない。

 これまでも自治体の誘客事業や着地型コンテンツ造成は存在した。しかし、今回の制度では、国の登録制度、自治体の担い手不足、ふるさと納税、交通・宿泊、地域での活動、企業研修や教育旅行、二地域居住といった施策が「継続的に地域へ関わる人」という一つの軸で結びつく。

 日本旅行が狙うのも、その接続部分だ。地域課題を旅行者が参加できる体験へ変換し、旅の入口をつくる。そして、最初の訪問を次の訪問につなげる。自治体からの受託事業と旅行販売を組み合わせながら、地域と旅行者との関係そのものを長期的に設計する。

 ただし、本間氏が認めるように、収益モデルはまだ固まっていない。担い手活動の造成だけで十分な収益を確保できるのか、自治体の委託費や公的支援にどこまで依存するのか、参加者の交通・宿泊費を誰が負担するのかなど、事業化に向けた論点は多い。

 それでも、自治体の実証現場ではすでに、地域資源の商品化、移動・宿泊、コーディネート、安全管理、再訪促進という需要が顕在化し始めている。