DMOガイドラインの改正で何が変わるのか?~観光で地域を活性化するための道筋vol.3-デイアライブ 川口政樹氏

  • 2025年5月30日

■ガイドラインにおけるDMO登録要件の主な改正ポイント

 それでは、「観光地域づくり法人の登録制度に関するガイドライン」の中で、メインとなる「DMO登録要件」がどのように改正されたかを見ていきましょう。主な改正ポイントは、「DMO区分の見直し」、「観光地経営戦略策定の義務化」、「KGI、KPIの追加」、「組織体制の更なる強化」、「安定財源確保の強化」、「更新要件の新規導入」、「審査方法の改善」の7つとなります。

⑴ DMO区分の見直し

 現在、DMOは3つの区分があります。地方ブロックレベルの区域を対象とする「広域連携DMO」、複数の自治体にまたがる区域を対象とする「地域連携DMO」、原則として単独市町村の区域を対象とする「地域DMO」です。

 今回の改正により、次の3つの区分となります。

  1. ①広域連携DMO:地方ブロックレベルの区域を対象
  2. ②都道府県DMO:単一都道府県の全域を対象
  3. ③地域DMO:単一市区町村・複数市町村にまたがる区域を対象

 第6回有識者会議における観光庁の案では、従来の3区分に「都道府県DMO」を追加して4区分にする、というものでした。従来の「地域連携DMO」の中には、都道府県レベルのDMOも複数市町村にまたがるレベルのDMOも混在していましたが、それらを同じ役割と機能として考えるのは難しいという問題意識から提唱されたものです。

 有識者会議では、DMOの区分けについても様々な議論が交わされました。例えば、以下のような意見が出ています。

 そもそも行政視点での区分けはユーザー視点を無視しており、本質的な意味があるのか疑問

 都府県域DMOを切り出すことが、行政の都合ではなく、今後のDMOの発展にどのように寄与するのかという観点で検討すべき

 こうした議論の結果、最終的には従来の「地域連携DMO」という区分は廃止されました。その代わりに、「地域DMO」の中に複数市町村にまたがるDMOも含まれるという整理に落ち着いています。

⑵ 観光地経営戦略策定の義務化

 今回のガイドライン改正の大きなポイントは、「観光地経営戦略の策定」が義務化されたことです。DMOの区分ごとに経営戦略に記載する要素が示され、これらの要素を含んだ観光地経営戦略が策定されていないと、DMOとして新たな登録ができなくなりました。

観光地経営戦略の構成要素広域DMO都道府県DMO地域DMO
1観光地のビジョン、重要目標達成指標(KGI)
2観光地のビジョンに基づく観光地域づくり法人の使命
3データの活用方針
4環境分析
5観光地域マーケティング戦略
6地域のマーケティングミックス(4P)戦略
7マネジメント区域における受入環境整備の方針
·基礎的なインバウンド受入環境整備の方針
·二次交通の課題解決及び確保の方針
·ガイドの確保及び育成の方針
8顧客管理の方針
9観光による受益を広く地域に行き渡らせる方針
10戦略の重要成功要因(KSF)及びKPI
11実行計画
12効果検証の体制とその方法
13【更新要件】観光地経営戦略を踏まえた成果の分析及び評価と、それを踏まえた見直し事項の整理


 また、広域連携DMOと都道府県DMOについては、求められる役割に応じた方針を策定すること、とされています。

  1. 【広域連携DMOに求められる最低限の役割】
  2. ① 広域的なデータの収集及び分析
  3. ②人材育成のための研修
  4. ③インバウンド向けの旅行商品を流通させるための支援
  5. ④地方運輸局等及び日本政府観光局と連携したインバウンド向けのプロモーション
  6. ⑤大規模災害時の風評被害対策

  1. 【都道府県DMOに求められる最低限の役割】
  2. ①都道府県域のデータの収集及び分析
  3. ②人材育成のための研修
  4. ③広域連携DMOと連携した形でのインバウンド向けの旅行商品を流通させるための支援
  5. ④国内旅行者向け旅行商品を流通させるための支援
  6. ⑤マネジメント区域内の「売り」を踏まえたポジショニング
  7. ⑥旅行者視点に立った、近隣の都道府県との連携の推進

 なお、個人的な見解となりますが、戦略に定めるべき構成要素を国が一律に示し、それに基づいて策定される戦略というのは、本来の戦略にはなり得ないのでは、との疑問が残ります。第3回有識者会議において、『経営戦略とは、「目的を達成するための資源配分の意思決定」である』との発言があったとおり、戦略の核となる考え方は「選択と集中」であり、やった方がいいことをあれもこれもやる、というのは戦略ではない、ということです。(前回の記事でも、その点について森岡毅さんの著書から引用して言及しています)

 本来、DMOごとに地域の観光資源もリソースも大きく異なる中、戦略もそれぞれ独自なものになってしかるべきです。もちろん、ガイドラインにも「「選択と集中」の考え方に基づき、何に対して人的資源や財源を集中的に割り当てるのか等を明確にすることが重要である」と記載されていますし、今回のガイドラインでは戦略に記載すべき「要素」を示しているだけのものなので、それぞれの要素ごとの重みがDMOごとに異なるということになろうかと思いますが、記載すべき構成要素を国が決めることで、「あれもこれも」という総花的な戦略になりがちなものを助長しかねないのでは、との懸念が残ります。

⑶ KGI、KPIの追加

 改正前のガイドラインでは、必須KPI(重要業績評価指標:Key Performance Indicator)として「延べ宿泊者数」、「旅行消費額」、「来訪者満足度」、「リピーター率」の4つが示されており、この他に独自のKPIを設定することも可能、となっていました。

 今回の改正により、KGI(重要目標達成指標:Key Goal Indicator)が新たに設定され、KPIとして「リピーター率」がなくなり、「1人当たり旅行消費額」、「持続可能な観光に対する住民満足度」、「観光事業者の平均給与額」、「月別来訪者数の平準化率」が追加されました。

必須KGI、KPI広域DMO都道府県DMO地域DMO
KGI
1旅行消費額
2【更新要件】経済波及効果
KPI
11人当たり旅行消費額
2延べ宿泊者数
3来訪者満足度
4持続可能な観光に対する住民満足度
5観光事業者の平均給与額
6月別来訪者数の平準化率
7【更新要件】実行計画を踏まえマネジメントの観点から観光地域づくり法人が自ら設定するKPI
8【更新要件】実行計画を踏まえマーケティングの観点から観光地域づくり法人が自ら設定するKPI


 どのようなKPIにするかについては、有識者会議においても議論が分かれていました。

 第5回有識者会議における観光庁資料には、「域内調達率」をKPIに追加するという案が示されていましたが、有識者からの、『地域に観光の恩恵が還元されていないといった課題があり、この課題への対応の一つとして地域調達率を明確化し目標値を設定することは良いが、観光の地域への恩恵、貢献は地域調達以外にも沢山ある中で、地域調達のみを向上することで全体の大きな恩恵が崩れてしまうことになると本末転倒になる』といった意見や、『域内調達率は、その地域内部への効果、成果を測るものであるため、場合によっては、観光客の満足度を徹底的に下げてしまうこともあり得る』といった意見を踏まえ、KPIへの追加は見送られたようです。

 また、ある有識者からは、

 本来的には、DMOを評価するのは「霞が関」ではなく、DMOが所在する「地域の事業者や住民」であるはず。DMOには二種類の経営(マネジメント)が必要となる。ひとつは「組織の経営」、もうひとつが「地域の経営」である。DMOが成果をだす組織となるためには、二つ目の地域のマネジメントを機能させるガバナンス構造にあるか否かが重要であり、地域の住民・事業者がDMOをどう評価しているか等をDMOの評価指標とすることが必要と考えられる。

 といった意見も出されていました。

dayalive
出典:「観光地域づくり法人の登録制度に関するガイドライン」の改正案に関する意見募集の結果について:参考資料

⑷ 組織体制の更なる強化

 DMOの組織について、改正前は満たすべき要件が4つ(①法人格の取得、②意思決定の仕組みの構築、③CMOの配置、④CFOの配置)でしたが、改正後は次の7つの要件全てに該当することが求められます。

  1. ①法人格の取得
  2. ②意思決定機関の設置
  3. ③最終的な責任者の明確化
  4. ④データ分析に基づいたマーケティングに関する責任者(CMO)の配置
  5. ⑤財務責任者(CFO)の配置
  6. ⑥3名以上の常勤職員の配置
  7. ⑦観光地域づくり法人の職員の満足度調査の実施及び満足度に係る数値目標の設定

 ②の「意思決定機関の設置」については、ガバナンス体制の構築及び強化を図る目的で、理事会等の設置が義務付けられました。さらに、『意思決定に係る役員(理事長、理事等)は、(中略)自身の所属団体と地域の間で利益相反のない意思決定や経営判断ができる者を選任することが重要である』と新たに追記され、DMOが組織として適切な意思決定をするための必要な要素が明示されています。

 なお、意思決定機関での議事内容については、公表することが更新時の要件となっているので注意が必要です。

 ④と⑤のCMOとCEOの配置に関しては、改正前のガイドラインにおいても専門人材として配置が必要とされており、CMOについては「専従で最低一名存在していることが必要」とされていましたが、今回の改正において、CMOについてはその役割の重要性から『専門的なスキルや求められる役割を果たせる人材の配置がより柔軟に行えるよう、専従であることは求めない』とされました。つまり、同じ人が複数のDMOのCMOになることができる(兼任することができる)ようになったということです。

 ⑥の「3名以上の常勤職員の配置」における常勤職員とは、DMOが定めた所定労働時間を通じて勤務する職員のことであり、正規(プロパー)職員、出向職員、非正規職員が含まれます。週2~3日勤務や時短勤務等により所定労働時間に満たない職員は、雇用形態に関わらず常勤職員とはみなされません。

 ただし、出向者が中心となっている組織は専門性の維持、向上に課題があるため、プロパー職員の確保・育成と、即戦力となる外部人材の登用の両面から取り組むことが必要、とされています。

dayalive
出典:第7回有識者会議資料「新規登録ならびに更新登録に関する今後の流れ等」

 ⑦として追加された「DMO職員の満足度調査の実施と数値目標の設定」は、DMO自身の組織経営における指標ということで、実質、DMO職員の満足度も必須KPIとなりました。DMOは、職員の満足度を毎年調査したうえで、評価、分析、見直しをしていくことが求められます。

⑸ 安定財源確保の強化

 改正前のガイドラインにも、「安定的な運営資金が確保される見通しがあること」との記載がありましたが、改正により、「財源計画の策定」と「安定財源確保率の設定と評価」が追記され、財源確保に関する取組の強化が求められることになりました。

 必須KPIとなった「安定財源確保率」とは、DMOの全収入に占める安定財源による収入の和の比率です。多くのDMOの財源となっている「自治体からの補助金」については、「地方自治体の予算は単年度主義であり、継続的な支援により将来にわたる安定的な財源の調達を見込むことは困難であるため、地方自治体の補助金等に完全に依存することは望ましくない」ということで、安定財源には含まれません。

 安定財源の事例としてガイドラインに記載されているのは、次の5つです。

  1. ①特定財源
  2. ②地方自治体からの受託事業に係る収益
  3. ③会費
  4. ④具体的な使途が決まっていない、行政からの支出が確定している交付金や負担金
  5. ⑤収益事業

 ①の「特定財源」とは、宿泊税や入湯税といった観光関連の税金が原資となっているものです。有識者会議において、海外では宿泊税を原資としてDMOが機能している事例が紹介されており、安定的な財源として最も期待されているところですが、宿泊税の徴収額がそのままDMOに配分されるわけではないので、宿泊税に関する条例の中にDMOをどのように位置づけるか、が重要になってきます。

 なお、③の会費については、「DMOは、会員の特典や利益になることを求める組織ではないことに注意が必要」との注記があります。「社団法人」の組織形態をとっているDMOにとって、DMOとして求められる役割と社団法人として求められる役割を両立させることはなかなか難しいところですが、DMOと名乗る以上は、会員のための互助組織から脱却し、地域全体の観光振興という大きな目的を達成するための組織へと進化していくことが大切です。そのような観点からも、特定財源の確保が望ましいと思われます。

⑹ 更新要件の新規導入

 登録されたDMOは、今までと同様に3年ごとに更新する必要がありますが、これまでの活動の成果を定量的、定性的に評価することが更新要件となりました。

 更新の際には、「経済波及効果」についてもKGIとして分析・評価をすることとなりました。KPIについては、DMOが独自に設定する「マネジメント」と「マーケティング」の指標についても他のKPIと同様に分析・評価が必要となっています。

 また、「観光地域づくり法人の組織の確立」に関し、「基礎的な研修を受講していること」が更新要件として追加されています。研修については、経営層(理事長、理事、CEO)に当たる者は毎年1名以上、CMO、CFO、中核人材、実務人材に当たる者は、更新登録申請までに最低3名以上の受講が必須となりました。

 有識者会議においても、『DMOが基礎的な事項ができていない、施策案全てを実施することは困難といった問題の根本的な原因は、DMOに「プロ」がいない事だと考える』と指摘された通り、DMOにおいて人材育成は急務の課題です。そのような課題意識から更新要件として研修受講が必須とされたところですが、具体的にどのような研修を受講すればよいか、については現時点で明確になっておらず、今後、観光庁が選定するとのことです。

 研修の選定にあたっては、観光庁が令和5年3月に策定した「ポストコロナ時代における観光人材育成ガイドライン -持続可能な観光地域づくりに向けて-」における6本柱を要件として活用するとのことなので、目を通しておくとよいでしょう。

dayalive
出典:第7回有識者会議資料「パブリックコメントの結果と登録要件の運用」

⑺ 審査方法の改善

 改正ガイドラインの施行後は、DMOの新規登録と更新登録にかかる審査を1年かけて実施することになりました。これまでは、書類に基づいて登録要件を満たしているかどうかの審査でしたが、今後はヒアリングや外部有識者の評価も参考に、登録の可否を判断するとのことです。

 なお、現状の制度では、まず「候補DMO」として登録され、その後に「登録DMO」になるというフローでしたが、「候補DMO」はなくなり、登録要件を満たしていれば「登録DMO」になれることとなりました。

 また、更新登録の際に「更新不可」となった場合、基本的にはDMOの登録を取り消されるのですが、一年以内に再申請の意思があれば「留保DMO」となり、取消が留保されるという仕組みになります。

dayalive
出典:第7回有識者会議資料「新規登録ならびに更新登録に関する今後の流れ等」