DMOガイドラインの改正で何が変わるのか?~観光で地域を活性化するための道筋vol.3-デイアライブ 川口政樹氏

  • 2025年5月30日

 観光で地域を活性化するためには、それを推進するための組織が必要不可欠です。従来、自治体と観光協会がその役割を担ってきましたが、それでは不十分ということで、観光庁が推進しているのが「DMO(ディー・エム・オー:Destination Management/Marketing Organization)」です。

 観光地域づくり法人(DMO)の役割や登録・更新要件を具体的に解説するガイドラインが令和7年3月25日に改正されたので、今回は、ガイドラインの改正にいたる背景や、改正のポイントなどについて、有識者会議での議論を踏まえて解説していきます。

■DMO制度の概要

 観光地域づくり法人は、2015年に「日本版DMO」として誕生しました。これは、地域が一体となって観光地の経営力を高めることを目指し、国が推進している組織です。地域の「稼ぐ力」を引き出し、多様な関係者と協働しながら、明確なコンセプトに基づいた戦略を立て、PDCAを回していく司令塔として位置づけられています。

 観光庁は、DMOを核に据えることで、観光を地方創生の切り札と位置づけ、地域社会と経済に好循環をもたらす持続可能な観光まちづくりを目指しています。

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出典:第1回有識者会議資料「観光地域づくり法人の現状及び課題」

■「観光地域づくり法人(DMO)の登録制度に関するガイドライン」とは

 「観光地域づくり法人の登録制度に関するガイドライン」は、「世界水準のDMOのあり方に関する検討会」の議論等を踏まえ、従来の「日本版DMO」登録制度を見直すとともに、DMO全般の底上げを図ることを目的に、令和2年4月に作成・公表されました。

 また、「第4次観光立国推進基本計画」が令和5年3月に閣議決定されたこと等を踏まえ、令和5年4月に一部改正されています。

 その後、DMOを司令塔とした観光地域づくりの推進に当たって、今後DMOに必要となる機能について検討することを目的に、「観光地域づくり法人の機能強化に関する有識者会議」が令和6年1月に設置されました。有識者会議において令和7年3月までに行われた7回の会議での議論内容やパブリックコメントを踏まえ、令和7年3月末にガイドラインが改定され、一部を除き、令和7年10月から施行されることになりました。

改正された「観光地域づくり法人の登録制度に関するガイドライン」全文
現行(令和5年一部改正)のガイドライン

■今回のガイドライン改正にいたる背景

 改正ガイドラインの冒頭の「背景」には、「地域に真に必要とされ、持続可能な観光地域づくりを戦略的に実践する質の高い法人を形成するため、登録制度及びその運用を改めて見直したところである。」と記載されています。逆に言えば、現状のDMOが「地域に真に必要とされておらず、質が高いとは言えない」状況にあるからこそ改正する必要が生じた、とも言えるでしょう。

 そのような状況を裏付ける資料として、DMOへのアンケート調査結果から明らかになった現状と課題が、第1回有識者会議で示されました。

  1. ▸登録DMOの現状の課題として、約8割が「人材の確保・育成」、「予算・財源」と回答
  2. ▸観光関連事業者、従事者、地域住民に関する指標を把握しているDMOは少ない
  3. ▸戦略策定の課題として、半数以上が「データを分析して戦略策定につなげるノウハウが不足している」 「戦略策定を行う上で分析に必要なデータが不足している」と回答
  4. ▸「住民」と合意形成・調整を行っているDMOは約3割

 また、第5回有識者会議において観光庁が提示した資料「DMO登録要件の見直し」には、ガイドラインにおけるDMO登録要件の見直しの背景として、

  1. ▸DMO制度が創設されてから約9年が経ち、登録DMOの数が312となっていること
  2. ▸オーバーツーリズムの未然防止・抑制をしつつ、地方への誘客を進める必要性が高い状況の中で、DMOが観光地域づくりの司令塔として、これまで以上に果たすべき役割が増大していること

 と記載されています。

 有識者からは、

 全世界で2400件程度のDMOがあると言われており、この中に日本の登録DMO312件が含まれているとしたら、全体の15%程度を占めていることになり、どう考えても多すぎる。

 登録DMOになりたい団体の多くは、補助金の獲得が目的であり、補助金を獲得するための仕事が中心になっている。このような組織に、国や地方行政から補助金を出すことは、要件の見直し以前の問題であり、不適切だと考える。DMOの数をもっと絞り、再編することが相応しいと考える。

 との指摘もあり、DMOの数は増えたものの、さまざまな課題を抱えており、本来の役割を果たしているDMOが少ないことから、ガイドラインを改正することで「あるべきDMO」の姿を明確化し、「名ばかりDMO」を淘汰していこうとしているように思われます。

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出典:第5回有識者会議資料「DMO登録要件の見直し」