リピーター戦略と地域連携で広がる中小旅行会社の可能性-アルファトラベル森野氏が語る、京都発・旅行業の現在地
京都という観光都市にありながら、あえて“量より質”の募集旅行に注力し、ロイヤルカスタマーを育ててきたアルファトラベル。代表を務める森野茂氏は、京都府旅行業協同組合理事長をはじめ、複数の業界団体や関連企業の要職を兼務し、地域観光における中小旅行会社のキーパーソンとしても注目されている。AIの導入や行政との連携にも積極的に取り組む森野氏に、旅行業の現場で培った知見と、これからの時代を見据えたビジョンを聞いた。

森野 茂 氏(以下敬称略) 私は1964年に大阪で生まれ、現在60歳になります。子どもの頃は家庭があまり裕福ではなかったので、旅行に出かけた記憶はほとんどありません。しかし、その分「旅」への憧れが強くなったのだと思います。高校を卒業する頃になっても進路が決まらず、アルバイトをしていたときに、偶然目にした大阪トラベルジャーナル旅行学院の広告に、専科という1年制コースがあり、試験もなくすぐに入れるということで、思い切って入学しました。そこで学びながら、夏休みに京都新聞旅行センターで添乗員のアルバイトをする機会があり、初めて旅行業の現場に触れ、この仕事の面白さとやりがいを強く感じるようになりました。その後、2年ほど添乗や内勤を経験し、自然な流れで同社に就職しました。
当時は大量集客の「マスツーリズム」全盛期。私は15年ほどこの現場で企画業務に携わり、多くのことを学ばせていただきました。しかし、募集旅行に偏りがちな業務の中で、「もっと多様な旅行を扱いたい」という思いが強くなり、33歳の時に独立。アルファトラベルを立ち上げました。社名の「アルファ」は、響きの良さだけでなく、ギリシャ語で「始まり」という意味があります。私にとって旅行が人生の始まりだったように、お客様にも常に新しい発見や感動に満ちた旅を提供したい、“旅が人生の始まりになる”という願いを込めました。
森野 京都には、実は中小旅行会社が手がける募集型企画旅行がほとんど存在しません。私が創業後に手がけたのも、まさにこの分野でした。当時は大手メディア系旅行会社がたくさん参入していた時代でしたが、次第に撤退する中、私は前社での経験を活かしてノウハウを培ってきました。
創業初期は、弟がラグビー選手だった縁から、スポーツ団体の遠征や合宿を受注し、以前の勤務先でつながりのあった女性会や地域団体のお客様にも支えられ、少しずつ事業を広げていきました。今では、募集型企画旅行、受注型企画旅行、そしてインバウンドと、三本柱で展開しています。昨年度の取扱比率は、それぞれが全体の3割ずつを占め、残りの1割はDMOや自治体との連携業務です。
森野 創業当初は、大きな広告で、派遣社員を雇ってまで募集受付をしていましたが、1000人規模を集めてもリピーターにはなりづらく、コストばかりかかってしまうことに気づきました。そこで「リピーターを育てる旅」を目指して生まれたのが「古道歩き」シリーズです。最初は中山道で、京都から江戸(東京)まで月に1度、10キロずつ歩く旅。三条大橋をスタートに、毎月その続きを歩き続けるスタイルで、はじめは300〜400人が参加しても、最後まで完歩するのは40人ほど。しかし、その方々は熱心なロイヤルカスタマーとなり、東海道、熊野古道、鯖街道とシリーズ展開していく中で、ずっと参加してくださっています。
近年では、ウォーキングツアーに加え、季節の花や旬の食事を楽しむ少人数の旅行をご提案しています。食事場所も、かつてのようなドライブインではなく、その地域の食事処に変えたことで、より満足度が高まりました。また、定期的に企画する離島巡りツアーも魅力となっているようです。広報手法もLINE会員化による見直しにより、広告コストも10分の1ほどに抑えられています。