回復順調のオーストラリア、各州の現況と今後の戦略まとめ(前編)
日本発の海外旅行市場において回復を牽引しているオーストラリア。そもそもオーストラリアは、一時は日本人訪問者数が大きく落ち込んだがその後にV字回復を実現。5月19日から24日までメルボルンで開催された現地商談会「オーストラリア・ツーリズム・エクスチェンジ(ATE)」の会場でも、今後のさらなる成長への期待が聞かれた。オーストラリア政府観光局(TA)と各州・地域の担当者が語った日本市場の現状と今後の展開についてまとめる。(後編はこちら)
デレック・ベインズ氏(日本・韓国地区局長)
オーストラリアにとっての日本市場は、最盛期には70万人を超えるまで拡大していたところから2011年からの数年間は30万人台前半にまで減少。しかし、航空路線網の充実とともに苦境を脱して以降は2019年まで6年連続でプラス成長を続け、2019年には約49.8万人に達した。
コロナ禍からの需要回復は他国に比べると遅れているものの、記録的円安などによって海外旅行全体が停滞しているなかでオーストラリアは今年3月までの12ヶ月間で19年通年に比べ31%減となり総出国者数の45%減を上回って回復。国別のシェアを拡大している。
TA日本・韓国地区局長のデレック・ベインズ氏はコロナ後の状況について、欧米に比べれば為替レートの変動が少なく費用対満足度の競争力が増していることや安心安全に加え、日豪間の航空座席がすでにコロナ前を超えていること、そしてコロナ禍中の段階から旅行業界との連携を意識したマーケティング活動を積極的に展開できてきたことが奏功していると分析。
全世界からの入国者数は年内にコロナ前の水準に戻る見通し。日本については「もう少しかかる」が、これまでの状況から「全体よりはちょっと早め、もしかしたら来年の前半には実現できるのでは」との考えで、その実現に向けて先日発表した世界遺産キャンペーンなどを通して、旅行会社とも協力しながら効果的な施策を展開していきたい考えだ。
マーティン・ケーズラー氏(マネージャー、グローバルマーケットマーケティング)
キャトリン・キャレー氏(ヘッド・オブ・インダストリー&パートナーシップ)
リンデン・クリアリー氏(CMO)
日本市場への期待感で過去との変化が最も大きく感じられたのは南オーストラリア州とタスマニア州だ。いずれもかつては日本向けに専任担当者を置いて需要を喚起していたが市場低迷のなかで撤退していたのだが、V字回復を受けて再評価の動きが顕著に。
南オーストラリア州では18年ごろから活動再開に向けて検証を開始。コロナ禍で一時停止したが、22年にはTAが日本で開催する商談会「マーケットプレイス」に参加して来日し昨年には日本語のウェブサイトを再び開設。今年のマーケットプレイスにも参加する。
しかもアデレードへの直行便就航を州政府として重要な目標とし、すでに日系航空会社にもアプローチを開始。観光局として専任担当者の設置するなど具体的な案はまだないものの「そうした選択をする可能性も十分ある」という。なお、日本人訪問者数は23年通年で19年比6割ほど。来年にはコロナ前の1万人規模に戻すことも可能との想定だ。
一方、タスマニア州も日本に注目。日本が本来は新興国や成長市場を意味する「emerging market」と表現されたのが新鮮な驚きだったが、コロナ禍で旅行者の欲求が大きく高まった「広い空間やきれいな空気、時間の流れの緩やかさ、美しい自然」といったタスマニアの魅力を武器に需要の獲得をめざす考え。
現時点では「小さな州であり、すべての市場に力を入れることはできない。最も的確な判断を下す準備をしている」段階だが、今回のATEでは「可能な限り多くの日本人バイヤーとアポイントを取るようにした」とのこと。さらに「状況を注視しながら再び取り組みを開始する可能性を検証」しており、マーケットプレイスへの参加も前向きに検討中だ。ちなみに、日本市場はすでに回復しており平均滞在日数が14日間と長くなっているのも特徴という。
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