訪日旅行、人材不足が大きな課題、質と量のバランス重視を-JATA経営フォーラム
水際対策緩和で急増する訪日需要への対策急務
サステイナブル・アドベンチャーツーリズムで質の拡大を
課題は全般的な人材不足、航空や宿泊、レストランなどに影響
パネルディスカッションで中心となった論題は、訪日市場の再生・復活に向けた課題と今後の方針だ。課題については黒澤氏の用意したスライドをもとに議論を実施。JNTO企画総室長の平野達也氏は航空座席不足を課題として挙げ、「地方便を中心に、地方空港のグランドハンドリングや保安検査の人手不足などにより復便に結び付けられないという話も聞いている」と懸念を示した。さらに中国の水際対策が本格的に緩和された場合、航空会社が日本路線ではなく中国路線に注力する可能性があるとし、「力強いインバウンドだけでなくアウトバウンドも含め、航空便の需要をしっかり作っていくことが課題」と話した。
T-LIFEパートナーズグローバルソリューション事業部事業部長の中山眞一氏は人員不足が大きな課題であるとし、例として団体の食事場所の手配が難航していることを説明。コロナ禍で地方を中心に飲食店の廃業が続き、ランチ営業の中止や団体の受け入れを中止する飲食店があるため、団体を受け入れる飲食店が少なくなったことが課題とした。
加えてホテルの人手不足の影響も大きいとし、例として訪日団体旅行を扱った際、旅行者の荷物を事前に客室に運ぶバゲージ・アップはできない、というホテル側と交渉したケースを紹介した。その時は事前にホテルからバゲージタグを送ってもらい、プレアサインされた名前を記入して荷物につけ、トラックにフロアごとに積んで輸送することで、ホテル側がすぐ荷物を運べるよう工夫したという。中山氏は「そこまで気を使わないとお客様のリクエストに応えられない」と危機感を語った。
また、平野氏は訪日旅行需要の一極集中を課題として指摘。桜シーズンの人気が高く、人手不足の中宿泊施設の予約が取れず、現地の旅行会社のなかでは夏をピークに商品を販売せざるを得ないのではとの話も出ているとした。これに対し、東武トップツアーズソーシャルイノベーション推進部顧問の磯康彦氏もホテルの人員不足に加え、バスのドライバー不足、ガイド不足も課題と説明した。
このほか、緒方氏は航空会社のフライトのスケジュール変更を課題としてあげた。各国の定期便が安定供給されていないことが要因であるとし、ランド手配をすべてやり直し、車内が疲弊したこともあったという。これらを踏まえて黒澤氏は「最大の課題は人材不足に起因していろんなサービス手配の仕方が変わってきていること。3、4月の桜の訪日ピークシーズンをいかに乗り切るのが直近の課題」と語った。
遅れるサステイナブルツーリズム対応、積極的な取り組みを
パネルディスカッションでは、JNTOの取り組みをもとに、訪日旅行の質をいかに高めるかについても議論がなされた。黒澤氏はコロナ後の戦略として「サステイナブルツーリズムの推進とSDGsへの貢献」「アドベンチャートラベルなどテーマ性を持ったツーリズムの強化」「オーバーツーリズム回避に向けた地方誘客の推進」「MICEのハイブリッド開催によるMICEサステナビリティの推進」「欧米豪・富裕層の誘致による旅行消費額の拡大」をあげた。
このうちサステイナブルツーリズムについては、旅行業界の取り組みが他の業界に比べて遅れていることを指摘。他産業と比較すると、旅行業は最も低い16.0%の企業・団体しか取り組んでいないという結果が出た調査を紹介し、「アフターコロナで大きくクローズアップされ、誰しも取り組まなければならないこと。旅行業も積極的にやることが望まれる」と話した。JATAでは「JATA SDGsアワード」による正会員の表彰制度や、ツアーオペレーター品質認証制度の認定・更新基準の項目にSDGsへの取り組みを盛り込むなどの取り組みをしているという。
平野氏は、2022年のエクスペディアによるオンライン調査で、59%の旅行者が環境に優しい方法で旅行するためなら、旅費が高くなっても構わないと回答したことに、に触れ、サステイナブルであればお金を支払う客層が確実にいることを指摘。一方でJNTOで実施したファムツアーでは、参加者からプラスチックの過剰包装や、旅館の食事が多すぎてフードロスではないかとの指摘もあったという。JNTOではデジタルパンフレットでサステイナブルトラベルの観光コンテンツ50件を紹介しているところ。「山伏体験など、文化と自然が密接に絡み伝統を感じられるようなものは分かりやすく海外からの関心も高い」という。
一方、旅行会社各社は自社の取り組みを紹介した。磯氏はカーボンニュートラルに向けてCO2の排出を減らすため、ベンダーと共同開発で会計データと紐づけてCO2排出量がわかるシステムを組んだことを説明。旅館やレストランなどのパートナーに導入を働きかけているという。
緒方氏はカーボンオフセットプランについて取り組みを進めるとともに、プラスチックごみの削減に向け、マイボトルをツアーで活用した例を紹介。自身がロンドンを訪問した際、ターミナル駅のパディントン駅に無料・有料の給水ポイントがあったことに触れ、「有料で日本の名水が入れられたり、施設でも部屋の水がペットボトルではなくなったり、各フロアにボトルを洗ったり給水できる施設が今後増えてくれば、より拡大できるのでは」と期待を示した。
中山氏は、国立公園とオフィシャルパートナーシップを締結し、バゲージタグをビニールから特殊加工の紙に変更したといった取り組みを紹介。加えて、昨年11月に70名の訪日団体を受け入れた際、CO2排出を減らしたいというクライアントの意向で、新潟/大阪間を飛行機ではなく東京経由で新幹線で移動した例を説明し、「人々の考え方がシフトし、こういう時代に入ったということ思い知らされた」と話した。