海外旅行回復に向けた旅行会社ならではの需要創造策は?PKGはなくなるのか?-JATA経営フォーラム
リアルならではの「顧客を知る」強みを生かし需要を創出
世界の商習慣に合わせ業法改正も
顧客に深く入り込み、顧客の知らないニーズの掘り起こしを
「今後の旅行業再生に向けた旅行会社のあるべき姿と方向性」については、萬年氏が日本人と外国人の価値観の違いについて「日本人は働くことの中に旅があるが、海外は旅をするために働く」と指摘。海外ではライフイベントとして旅があり、「旅育」という考えも根付いている。さらに国によるがフランスなどでは長期休暇もあることから旅行がしやすい環境にあることを説明した。そのうえで、外国人のスタイルを日本人に押し付けるわけではないとしながらも「なぜ外国人がそう考えるのか考えてもいい時代になったのでは。ライフイベントとして旅行会社もお膳立てできるような考え方をしていく力が求められる時期なのでは」と話した。
さらに同氏は訪れた土地を消費観光するのではなく、テーマ性のある目的を持って体験する「ツーリズム」を日本に根付かせるべきと主張。「ツーリズムはアドベンチャー、サステナブル、ウェルビーイングやガストロノミーなどいろいろある」と語り、「コロナ前に戻るのではなく、ツーリズムを通して課題を解決していく旅行業界」をめざすことが大切であるとコメント。「連携できる各社と手を組んで日本人を幸せにしたい」と意欲を示した。
石田氏は旅行会社には3つの役割があると指摘。1つ目は「顧客の体験創造」であるとし、「プロの目とコンシューマーの目の2つをもって需要創造を考え、顧客の知らないニーズを掘り起こす『企画性』が旅行会社の存在価値」と強調した。その上で「信念を持って企画性を磨き続けることこそが、需要創造と新たな変化に対応できると信じている。その気概が仲間を増やしチームを作り、コラボレーション、クリエーションを生み出し市場を創り出す力になるのでは」と話した。
2つ目は「顧客の人生を豊かにするカウンセラー」で、顧客に最適な提案をするためには、顧客一人一人と向き合って情報を共有する必要があるとした。3つ目は大手旅行会社ならではの視点で「規模の優勢を活かした商品サービス」と語り、「個人や小規模ではできない規模の持つ優位性を生かし、顧客の不便・不満を解消する商品やサービスを開発したい」と話した。加えて石田氏は、同社がワイキキ周辺で運航するシャトルバス「HiBus」について、旅行会社や航空会社、ホテルに対し、共同で販売・サービス提供ができないか交渉中であることを説明。「業界あげての量的拡大の一助になれば」と話した。
このほか、同氏はハワイの出張者が「ハワイに出張というと遊びだと思われる」と話す傾向にあることに触れ、「旅の効用を医学的・科学的に見える化し、必要不可欠な体験にしていく必要がある」と主張。JATAに対し、旅の医学的効能をの研究とその結果を広く発信してもらいたいとの要望を語った。
酒井氏も顧客との関係の重要性を指摘。一例として「死ぬ前にもう一度イタリアに行きたい」という車いすの父の希望を娘が叶える形で実施したイタリア旅行についてあげた。旅行は大成功で、翌年のスイス旅行の受注にもつながった。父親は残念ながらその後亡くなったが、後日家族から「とても満足して楽しい旅行だった、いい思い出ができた」と感謝の手紙をもらったという。
酒井氏は「これが旅行の神髄。売ったら売ったままでなく、そこにつながりを求めていく。リピーターにつながるので、手間がかかるが重要なこと」と強調。「OTAではそこまで深堀できず、目的ははっきりしているが動機を知らないということがありうる」と語り、「我々リアルエージェントは旅のプロとして海外での経験という力を持っている。新しいアイデアを出してコンテンツを作ることに注力してくべきでは」と話した。
パネルディスカッションの終わりには、濱中氏が取りまとめを実施。旅行業の再生のためには旅行会社の位置づけを高めることが必要であり、そのためには顧客の本質的な目的を深く知る必要があるとし、「お客様を理解して旅行従事者が自ら動いて市場を、旅を作る観点が重要」と話した。
また、市場を作るためには旅行従事者の発想の転換が起点になるとし、日本ばかりでなく他国の旅行者の動きを読み解き、プロとして顧客を導きながら進むべきとした。同氏は「旅行会社として果たす役割の限界には至っていない。役割の余地は十分にあるという心構えが必要」と訴えた。このほか、濱中氏は価格競争から高付加価値の提供への移行について改めてコメント。「共に作る共創も重要」とし、業界内に加え他業界との連携についても示唆した。