APU、来春「サステイナビリティ観光学部」を新設、その狙いと特徴とは-李燕学部長/土橋卓也教授

  • 2022年11月11日

地域の持続可能性を学ぶフィールドスタディを重視
理論と実践の両輪で主体的に学びスキルを習得

 立命館アジア太平洋大学(APU)は2023年4月、新たに「サステイナビリティ観光学部」を開設する。日本初のサステイナビリティ観光学を学べる学部として、社会課題解決という使命から⽣まれた学びを理論と実践の両輪からアプローチ。持続可能な社会に必要な4 つの要素「環境・社会・経済・⽂化」を複合的に学べる学部を目指す。新学部設立の背景やその特徴、新入生への期待などを都市計画に詳しい李燕(リ・エン)学部長と日本航空(JL)出身の⼟橋卓也教授に伺った。(聞き手:弊社代表取締役社長兼トラベルビジョン発行人 岡田直樹)

大分県別府市のAPU学舎

-まず、李学部長、土橋教授、それぞれの自己紹介をお願いいたします。

李燕氏(以下敬称略) 中国出身です。南京大学で地理学からのアプローチによる都市計画を学んだあと、北京の華東師範学校に進み、都市地理学で修士号を取得しました。その後、1990年に京都大学工学部に留学。土木計画学で博士号を取得しました。博士号を取得した後、立命館の環境システム科で助手を2年、国内の都市計画のコンサルタントに2年半勤めました。APUに赴任したのは2000年です。京大からずっと日本にいます。

⼟橋卓也氏(以下敬称略) 1985年にJLに入社し、国際線と国内線の営業販売に携わりました。JLでのキャリアの後半は国内線がメインとなり、事業計画、収入計画、予約管理などに関わっていました。JLは2010年1月に破綻しますが、その1年ほど前からは再建計画の事務方を務め、営業構造改革の一環で国内線事業全般のリストラ案を作成していました。その矢先に破綻。自主再建を断念することになってしまいました。その後、マレーシア支店長、広島支店長などを経て、2020年に定年退職。APUから声をかけていただき、2021年4月から航空産業論を研究分野として教授に就任しました。

-サステイナビリティ観光学部ではどのような内容の授業を担当されますか。

 現在、学部では都市環境と都市開発、大学院では都市の持続可能性を教えています。新学部では、今のところ特定の授業は担当しませんが、カリキュラムのデザインと全体のコーディネーションの役割を担います。重視しているのは学生のスキルアップ。1回生はコンピュターリテラシー、社会調査、統計学、2回生は文献購読、ゼミ、卒論など、スキル系のものには全て関わっていくほか、ゼミも担当します。

⼟橋 現在はインターンシップ、観光とメディア、航空産業論などを担当しています。新学部ではこれまでの分野とともに、フィールドスタディも受け持ちます。フィールドスタディについては、今年8月に「経済と環境の好循環」をテーマに、長野県飯田市でコロナ禍以降初めて対面で実施しました。また、来年2月には北九州小倉で「観光と環境」をテーマに実施します。

 オフキャンパスのプログラムはAPUの特徴のひとつです。地元別府をフィールドとする実習も、私を含めて教員皆と一緒に作っていきたいと考えています。

-サステイナビリティ観光学部が開設される意義を教えてください。

 持続可能性は喫緊の課題です。世界を見ても、大学院にはありますが、学部としてサステイナビリティ学を教育する大学は少ない。米国のスタンフォード大学は70年ぶりに新学部を開設しましたが、それもサステイナビリティ学。APUのサステイナビリティ観光学部は日本では最先端の取り組みになるでしょう。

 サステイナビリティと観光は、親和性があります。2つを組み合わせたことを不思議に思う人もいますが、説明すると、「観光はサステイナビリティを実現していくためのいいツール」だと理解してくれます。ネガティブな課題を解決していくというよりも、観光というツールを使って、地域の持続可能性を実現していく。観光も地域の歴史や文化などの資源で成り立っており、その資源の持続性は地域にとって非常に大切です。

 観光とは、一連の人の動きに伴うサービス産業ですので、本来はどの地域にも存在するような産業です。しかも、コロナ禍でオンラインツアーが生まれたことで、これまで観光とは縁が遠かった地域にもチャンスが生まれています。衰退している地域、貧しい国や地域にとっても、観光を通じて、地域の環境や社会、歴史文化資源を保護しながら、経済発展につなげる。そういう意味で、サステイナビリティと観光とは高い親和性を持っています。

 スタンフォード大学は、気候変動などを研究し学ぶ理工系のサステイナビリティ学部を新設しましたが、それとは異なり、APUは文系的なアプローチで進めていきます。世界的に見ても独創的だと思います。

⼟橋 観光産業に関わらず、モノからコトへの消費に関心が移っていると言われていますが、では、体験などのコト消費は誰が作り出すのか。もはや、大手ホールセラーではないのかもしれません。サステイナビリティ観光学部は、そのようなコト消費の新しいアイデアが生まれるようなところになると思います。