「持続可能な観光」実現に向け何をすべきか?ハワイ・カナダの先行事例から学ぶ-観光庁フォーラム
地元住民と観光客が参画できる仕組み作りが重要
住民の理解度向上へ、情報発信と定期的なリサーチを
地域住民の満足度・理解度向上に必要なものは?
パネルディスカッションでは、地域住民の満足度を高めることの重要性についても話された。ヴァーレイ氏は「地元のコミュニティの意見はとても重要で、それが直接ホスピタリティやプロダクト開発に関わる」と強調。加えて観光に対する住民の理解度を知るためのリサーチの必要性について訴えた。
ハワイでは1980年代から実施していたリサーチをさらに強化するとともに、島ごとの多種多様なアクションプランについて、実施状況などの情報を分かりやすく州民に伝えているところ。ハワイ・ツーリズム・オーソリティ(HTA)のボードメンバーが各島のコミッティと対面での意見交換をおこなっているほか、施策の成果をプレスリリースやテレビ、ウェブサイトなどを通じて可視化している。ヴァーレイ氏は「どんなにいいダッシュボードがあっても活動し状況が変化していることが伝わらないと、理解されないままの満足度調査になってしまう」とコメント。その上で「住民の理解度が上がると参画度合いがぐんと上がる」と分かりやすく情報発信することのメリットを強調した。
また、ヴァーレイ氏は地域住民に観光の重要性を理解してもらうことも大切であると指摘。ハワイでは小学生のころからハワイの文化、自然を理解するための教育プログラムが組まれており、中高校生には観光業に興味がある人に対し、インターンシップや奨学金などのプログラムを提供しているという。
一方、カナダでは国土が広くさまざまな環境・文化が混在しているため、地域ごとに最適なやり方を模索してきたところ。半藤氏は例としてバンクーバーを挙げ「旅行者がライフスタイルに憧れるようなところもある。住民がどう幸せに暮らし、アイデアをシェアするかといった生活すべてが観光資源なので、住民の満足度は大切」と説明した。
また、オカナガンでは2012年以降、自然・文化・コミュニティを保存しながら観光による経済効果の最大化をはかるため、10年計画の観光ビジョンを策定したことを紹介。「地域の観光協会が主導し、異業種や地域住民、先住民、環境保護団体から幅広く意見を募って対話し、皆を巻き込んで策定したビジョン」という。その結果、マナーの悪い観光客の問題や、夏の40日間にピークが集中することで雇用が安定せず環境面での負担が大きいなどの問題が明らかになった。このため「量から質への転換が」との考えが広まり、「よい客をターゲットにしていきたいという地域全体のコンセンサスがとれたことで、KPIを掲げて地域全体で持続可能な観光に取り組んで成功した」という。
持続可能な観光には旅行会社との協力が必須
パネルディスカッションでは、旅行会社と観光局が協力し、持続可能な観光に取り組むべきとの意見も出された。半藤氏は「持続可能な観光・再生型観光を求める観光地側の優先事項がある。それを旅行会社にどういうふうに価値を作って商品として提供してもらえるかは一つ大きなステップ」と語った。CTCでは2021年にJTBとパートナーシップを締結し、持続可能な観光の推進に取り組んでおり、約2年かけてツアー作りについて議論を進め、5月にツアーを発表したという。
ヴァーレイ氏も「日本市場はまだ平均的に6割がパッケージで4割がFIT。観光が再開する中、観光業界の中でのムーブメント作りは大切」と語り、旅行会社に対し、ハワイ側が伝えたいことを体験できるオペレーションやプロダクトやツアー作りの協力を求めた。そのためには旅行会社にハワイを知ってもらうことが必要との考えから、担当者の教育などをHTJとしてもサポートしていく考え。「今後与えられるマーケティング資金の中で、プロダクト開発や、人材育成を積極的におこない、BtoCでデータベースを持っているさまざまな企業とそれを拡散していく流れを造り上げていきたい」とした。
また、オーバーツーリズム対策についても話し合われた。ヴァーレイ氏はオーバーツーリズム対策として観光客の集中を分散化させるために新しいプログラムを開発する必要性を指摘するとともに、自然保護のためになぜそうすべきかという理由を旅行者に伝える啓蒙活動が重要とした。半藤氏も制限は「観光客も地域の人たちにとっても意義ある交流、非常に幸せな形での観光を成り立たせるため」のものとし、「個人的見解ではあるが、制限については理由をしっかり説明して皆さんを巻き込んでいければうまくいくのでは」と話した。
日本版持続可能なガイドラインを高評価、地域住民の参画促す取り組みを
このほか、パネルディスカッションでは司会の石原氏が日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)について登壇者に質問。半藤氏は「素晴らしいガイドラインを作っているので、地域住民、異業種を巻き込んでやってていけばいい」と語り、合意形成ツールや地域ブランディングツールとしての利用を提案。「新しい観光を作っていくため、アイデアをシェアし、2030年、50年にその地域がどうなっていてほしいか、目的を明確に持ったうえで、心から自分が暮らす土地を愛して観光客とわかちあえば、おのずと持続可能な観光はできる」との考えを述べた。
ヴァーレイ氏も「ガイドライン決めはすごく大切。次に大切なのはいかに参画させるか」と語った。例として同氏は「マラマハワイ」を挙げ、「『観光が大打撃を受けている時に難しい』という声もあるなか、ハワイ全体にビジョンを理解してもらえるよう、まずは観光事業者から取り組んだ」と説明。「ガイドラインのビジョンを形にするには、サプライヤーや観光事業者の理解と参画が重要。さらに進捗具合をPRして地元に理解・賛同してもらったときに、やっと一体化していく」とした。その上で、DMAPがそもそも日本のある都市の取り組みを参考にできたことを説明し、「日本には素晴らしい試みやプロダクト、文化資源があるし、たくさんの事例もある」と強調。ツーウェイツーリズムの中で再生型観光が進むよう尽力していきたい考えを示した。