「持続可能な観光」実現に向け何をすべきか?ハワイ・カナダの先行事例から学ぶ-観光庁フォーラム
地元住民と観光客が参画できる仕組み作りが重要
住民の理解度向上へ、情報発信と定期的なリサーチを
観光庁は10月5日、持続可能な観光(サステナブルツーリズム)をテーマにしたオンラインフォーラムを開催した。観光庁が進める「持続可能な観光推進モデル事業」の一環としておこなうもので、10月に加え12月、2023年2月の全3回でウェビナーを開催。1回目はハワイ州観光局日本支局(HTJ)とカナダ観光局(CTC)を招き、講演とパネルディスカッションを実施した。モデレーターは航空新聞社編集統括の石原義郎氏が務めた。
オンラインフォーラムの冒頭には、観光庁参事官(外客受入担当)の廣田健久氏が「より高い次元で観光立国、観光先進国を実現するためには、持続可能な観光の観点から住んでよし、訪れてよしの観光地域づくりを進めることが重要」と強調。観光庁が「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」の普及促進をめざして各地でモデル事業を実施していることなどに触れ、「成果のさらなる見える化をはかっていきたい」と意欲を示した。
ハワイは島ごとにプラン制定、旅前からハワイの再生型観光をアピール
フォーラムではまず、HTJ支局長のミツエ・ヴァーレイ氏が基調講演で、ハワイが地域の再生に貢献する「再生型観光(リジェネラティブ・ツーリズム)」に取り組んでいることを紹介。「ハワイは4、5世代先に失われたものを戻して再生していきたい。それを地元だけでできないから再生型観光という形で訪問者にも参画してほしいという考え方で動いている」と説明した。
ハワイでは2020年初頭に、2025年までの観光戦略として「自然保全」「文化継承」「コミュニティリレーション」「ブランドマーケティング」の4つの柱を掲げたプランを発表。コロナ以前から持続可能な観光に取り組んでいたが、コロナでハワイへの観光客が激減し、州民がじっくり観光や自然保護などを考える機会が生まれたことで再生型観光へのかじ取りが急激に進んだという。
ハワイでは島ごとに3ヶ年の「デスティネーション・マネージメント・アクションプラン(DMAP)」を作成して取り組みを進めているところ。島ごとに課題や住民の意識などが異なるため、各島の観光局や政府機関、商工会議所、観光業や観光業以外の産業のリーダーなどが集まるコミッティがディスカッションを繰り返し、それぞれのプランをまとめたという。現在は住民参加型のプログラムの開発や、宿泊税の一部をコミュニティの教育・文化プログラムの補助金にするなど、各島で地元を巻き込んだ活動を展開。地域住民の観光への理解を深め、観光に積極的に参画してもらうことをめざし取り組みを進めている。
観光客に対しては「マラマハワイ(ハワイを思いやる)」のスローガンを掲げ、「責任ある観光(レスポンシブル・ツーリズム)」をアピール。海洋生物に影響を与える日焼け止めの販売禁止を条例で決めたり、ホテルなどによる旅行者参加型の植樹プログラムを提供したりしている。加えて、各ホテルではハワイの文化を継承する役割を担う人物をカルチャーアドバイザーに任命し、フラやウクレレをはじめとしたハワイの文化が体験できるプロダクトも提供中。オーバーツーリズム対策として、オアフ島のハナウマ湾やダイヤモンドヘッドなど、人気の高い観光地への入場を事前オンライン予約制にする取り組みも展開中だ。
ヴァーレイ氏は「HTJの役割は現地が守りたいものを情報発信し、観光客が参画できるプロダクトを開発すること」と説明。「観光資源や文化を再生できるような再生型観光をするためには、プレとポスト両方のプランが必要」と強調。引き続きHTJとして旅行前にメディアや旅行会社とのセミナー、旅行商品などを活用し、ハワイの自然資源の深さや学びの要素などをアピールしていく方針を語った。