新春トップインタビュー:日本旅行業協会会長 田川博己氏

旅行業の基盤を見直し、仕掛ける1年に
リスク対策はコストでなく「投資」

―コンプライアンスについては、2016年には貸切バスの下限割れ運賃や下請法違反などもありました

田川 1つの社会の流れとして対応を求められている。これまでのツーリズム産業はリスクを避けるためのコストをかけたくないという思いがあったが、これからはこれらのコストを投資と見てやらないといけない。他の産業では、例えば30年から40年ほど前に工業排水で公害が発生していたところから、膨大な投資によって環境整備がなされた。

 今はちょうど旅行業などサービス産業がその対応を迫られているのではないだろうか。それをどうやってしっかりとするかという時期にきている。そういう意味でも、17年は節目の年になると思う。

 ダイバーシティや障がい者差別の解消についても、少し前まではJATAとしては会員企業の問題だと判断していた。しかし、もはや情報セキュリティや長時間労働、有休取得率などを含めて、きちっと対応しないといけない時期に来たと思う。また、政府もサービス産業の生産性向上などを謳っていて、この動きとどこかで平仄(ひょうそく)があっているのだと思う。


―民泊やシェアリングエコノミーについてのお考えをお聞かせください

田川 民泊は旅館文化をどうするかという議論にも繋がる問題だが、旅行会社からすると、極端にいえば安心して泊まれる宿であれば良い。農家民泊や修学旅行での民泊体験などもあるのだから、民泊がだめというのは本来おかしい。

 だが、不法というか不当というか、要するによくわからないものでお客様に安全が提供できないというのだと困る。例えば農家民宿は保険をかけている。モノでもコトでも最後は消費者の安全安心が必須であり、そういったルールが守られるということは譲れない。人間のやっていることだから間違いは起きるが、事故があってもちゃんと責任を取るということだ。そこの仕組みが法律だと思う。

 また、民泊との違いを旅館も出さなければならないだろう。「1泊2食」の議論でも、世界の潮流がルームチャージであるなかで、なぜ旅館でご飯を食べるのか。普通のルームチャージは1万円だが、食事をしてしっかりしたサービスを受けるなら3万円というように、意味がしっかりとあって買っていただけるような取り組みもあわせてしていかないといけないはずだ。


―現在、着地型商品の促進とインバウンドオペレーター規制について旅行業法の見直しが進められています

田川 地域活性化についていえば、大手旅行会社は全国津々浦々の小さい価値まで取り組みにくい。昔でいえば販売ルートに乗せるのが旅行会社の役割だったが、今はもうOTAに乗せてしまったほうが早い。リアルの店舗が厳しいというのはこの1年で十分に分かった。OTAと同じものをするならOTAのほうがいいに決まっている。

 ただし、OTAはそれを情報として全世界に発信するがそれにタッチするかどうかは他人任せのところがある。旅行会社は価値のあるものを必ずお客様にお見せする。そういった情報の出し方と取り方の質を旅行会社の価値として売っていくというやり方はあると思う。

 今後は、地域素材の開発や流通をトータルでやる会社もあれば、分業化するところもあっていいのではないか。ある素材をどう売るかという人はたくさんいるが、素材を開発し磨いて新しい宝にするプロセスはあまりやってきていない。素材そのものを加工せずに生のまま食べているようなものだ。


―専門特化の取り組みをJATAが支援することはありますか

田川 正直にいって、やらない。業界団体としてそこまでコンサルティングをする必要はない。それは企業努力であり、生き残るところだけが生き残る。我々の仕事はマーケットの創出や、会員が仕事をする上で不利だと思われることについて解決するまで徹底的に対応することだ。