「旅行需要が戻ると安心」という思考停止になってはいけない-RT Collection 柴田真人氏寄稿
第16回目のコラムは、「旅行需要が戻ると安心」という思考停止になってはいけないということについて書いていきます。
旅行業界にとって少しずつ状況が良くなってきたここ1カ月。3月にまん延防止措置が解除された後の人流データを見ても、観光地を訪れる都道府県外の旅行者が増えています。また、1月、2月と比べてみると、国内出張で新幹線を利用しても目に見えて利用者が増えており、観光地に実際に足を運んでも多くの人が再び旅行を楽しむようになりました。
海外では、入国条件の規制緩和や入国制限の撤廃を進める国が増え、ヨーロッパでは機内マスク不要とする航空会社も現れてきました。日本はというと各国に遅れてはいるものの、前進をしているのは間違いありませんし、すでに海外旅行をし始めている人もいます。私が携わらせて頂いているモルディブの案件では日本人のハネムーナーの海外旅行の予約が徐々にではありますが戻ってきました。旅行業界の人の中でもいよいよ旅行需要の回復が近づいてきたと感じる人も多くなってきたのではないでしょうか。
そんな旅行需要回復が近づいてきた中、このコロナ禍の2年でどういったアイデアを出し合い、どういったスキルを磨いてきたか、それが問われるタイミングに来ています。
旅行代理店ベースでいうと、この2年間、旅行情報の発信を止めず、時間をかけてウェブサイトのSEO対策を行い、Googleの検索結果の上位表示ができている旅行代理店がありました。今後、広告費を大きく削減できるだろうなと感心していました。
一方で、先日、販売が再開された海外旅行のパッケージツアーを拝見する機会があり、航空会社ANY、ホテルANYの旅行商品を目にしました。コロナ禍でも旅行ができる状況に向かっている今、旅行会社が「これから挽回するぞ!」とブーストを一気にかけないといけない時にそういう商品を目にしてしまうと、将来大丈夫なのだろうかと不安を感じてしまいました。商品自体を否定しているわけではなく、航空会社やホテルを気にしない価格重視の旅行者には反応があるかもしれませんし、そこに価値を感じる旅行者もいるとは思います。
コロナ前を思い出してみましょう。観光庁が発表する主要旅行業者の旅行取扱状況では過去10年間を振り返ってみると、海外旅行における旅行商品ブランド(募集型企画旅行)の取扱額および取扱人数は、2012年と2017年を除いて前年割れが続き右肩下がりでした。旅行者の自己手配、OTA、航空会社やホテルの直販、ロイヤリティプログラムなどにより、旅行者の旅行会社離れが年々加速していた事実がありました。このウィズコロナの旅行においては、旅行会社を使うメリットがあり、旅行需要回復期に売上を取り戻したとしても、以前のように海外旅行ができるようになると旅行会社離れの状況が再び起こる可能性があります。