データとデジタル化で旅行中のショッピング体験を再構築する
空港でのリテール(旅行小売業)は、空港、高級ブランド、そして免税店にとって、従来から大きな収入源だ。しかしパンデミック以降、この分野での収益確保は難しく、他の大規模小売業界と同様にイノベーションを起こす必要に迫られている。旅行者の属性は変わりつつある。ビジネス渡航はパンデミック後の回復が遅れている一方、格安航空会社が市場シェアを伸ばしている。旅行小売業者は進化する市場に対抗しアピールするため、広範な旅行データの収集と顧客体験を向上させるデジタル・プラットフォームの構築に注力している。
バーチャル・インターライニングと同様に、そこには現代の旅行者に向けて進化し、アピールするチャンスがある。航空会社や空港は、今日のeコマースブームからヒントを得て、従来型の旅行小売が長期的な選択肢ではなくなっていくなかで、顧客のショッピング体験を改革することができる。
デジタルネイティブ世代への対応
ベイン・アンド・カンパニーによると、可処分所得が少なくデジタルに強い若い世代が、2025年には全旅客の半数以上を占めるようになるという。しかも、ビジネス渡航者や長距離旅行者は減少傾向にあり、空港での従来のような豪華なショッピングへの需要は落ち込んでいる。
パンデミック以前、旅行小売業者の売上は空港の総収入の約30%を占め、着実に伸びていた。ビジネス渡航者や中国人観光客など富裕層の利用が増え、免税店や高級ブランドにとって活気のある市場だった。
しかし、旅行者層の変化に伴い、デジタル体験への欲求が高まっており、旅行者の旅行小売店との関係にも構造的な変化が生じている。現在、ターミナル内の免税店へ足を運ぶ旅行者は、全体の5%から10%に過ぎない。この状況を打破するためには、小売業者はデジタル化を取り入れ、モダンで便利なショッピング体験を通じて旅行者の購買意欲を高める必要がある。
例えば、ミレニアル世代は他のどの世代よりも旅行する回数が多い一方、彼らの旅行中の消費行動は予測ができないというデータがある。旅行小売業者は、ソーシャルメディアや航空会社のアプリケーションなど、ミレニアル世代の好むチャネルを通じて彼らにアピールすることができる。エアアジアは、「AirAsia Ride」を通じてデリバリーからライドシェアサービスまでを展開中で、今後は旅行やホテルの予約、ショッピングなどをワンストップで行える「スーパーアプリ」を目指している。
テクノロジーを顧客体験の向上に活かす
航空会社や小売業者は、旅行データを活用することで、旅行体験の向上に繋がる、パーソナライズされ、位置情報に基づいた「お薦め」を旅行者に届けることができる。
例えば、リアルタイムのフライトデータや空港のタイムテーブルを活用すると、旅程に応じた提案ができる。ジェットブルーの旅行サイト「Paisly」は、旅行者がよりシームレスにホテルやバケーションレンタル、アクティビティを予約し、オンラインで商品を購入できるという触れ込みだ。サイトでは旅行の目的地、到着日、出発日などの予約データにアクセスし、旅行者のニーズに対応している。同様に、シンガポール航空はデジタルeコマースを行うPelagoを子会社に持ち、旅行計画サービス、ロイヤリティ特典、体験重視型商品の購入機会を提供している。
デジタル・タッチポイントによりチェックインや搭乗、出発が容易になり、小売業者は旅マエ、旅ナカ、旅アトを通じて旅行者との関わりを維持するためのデータを蓄積することができる。
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