【発行人コラム】期待値コントロール

  • 2022年3月31日

 先日、旧知のある会社の創業者(現会長)と食事をご一緒しました(近い内に誌面にて対談又はインタビュー記事としてご紹介したいと思っています)。

 その際に「観光産業はいたずらに期待値を上げすぎる」という指摘を受け、思い当たることが大いにあったので、今週は「期待値コントロール」に関して書いてみようと思います。

 「期待値コントロール」という言葉をご存じの方は多いと思いますが、実際にお客様の期待値が自分や自社が提供出来ないレベル、価格を超えた期待になっていないかを確認する習慣が身についている方は少ないと思われます(もちろん、筆者もその一人です)。

 日本の商売人には「お客様は神様」「お客様の要望にはとりあえずYes!」という感覚が染み込んでおり、更には商談等の場面ではそのように振る舞うほうがその場での好反応が得られやすいことと相まって、出来ないことやそこまでしては収支が合わないことでも明快に「No」と言わず、出来る或いは出来るかも知れないという対応をしてしまう事が少なくないのでは無いでしょうか。

 しかし、お客様の満足度は必ずしも絶対的なサービスや商品の優劣だけでは無く、期待値を超えるか、超えないかの相対的な評価に大きく影響されます。

 よって我々はお客様の期待値を上回れるよう努力するのと並行して、期待値が上がりすぎないようコントロールする事が重要になってきます。

 観光産業での分かりやすい実例としては、客室の写真をweb等に掲載する際に、開業時或いはリノベーション直後、それもプロが撮ったとても綺麗な写真を使う。これを見て予約したお客様は部屋に入った途端に失望=期待値を裏切られる結果となります。

 また、とりあえず新規顧客を獲得したいために、永続的には提供できないようなサービスを約束するのもある意味同じだと思います。

 お客様はぱっと見の印象で決めることが多い、競争がある以上自社だけ正直になっていては勝てない等々、実力以上に期待値を上げる理由はいくらでも有ると思いますが、中長期的に見ればおそらく期待値を上回る何かを顧客へ提供し続ける会社が生き残るのだろうと思います。観光旅行にしても業務渡航にしても、お客様が期待値の核をどこに置いているかをしっかり把握していれば、提案を誤ることはないでしょうし、そのヒアリングができるのがリアル旅行会社だと思われます。

 またこの期待値コントロールは顧客に対してだけでなく、人間同士、例えば上司や部下との関係においても同じことが言えるのでは無いでしょうか…

岡田直樹
㈱エフネス代表取締役社長兼トラベルビジョン発行人。27歳でエフネスの前身㈱ルゥエストを創業し、32周年にあたる今年に至る。旅行素材のホールセール、観光関連企業への決済サービス提供、緊急対応代行、業界誌トラベルビジョン運営等々、主に観光産業内のB2B事業に携わる。
㈱ティ・エス・ディ代表取締役、一般社団法人インバウンドデジタルマーケティング協議会理事、㈱ミックナイン社外取締役​