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「素人が理想のホテルを創っています」投資家オーナーが実践するオペレーション―THE ACONCAGUA RESORTS 松原正恭氏

  • 2022年3月15日

固定観念を打ち壊し、「安泰なレッドオーシャン」で勝ち抜く

-他業界から参入したからこそ感じる宿泊業の魅力や、理想像はありますか。

松原 「こんな方に来ていただきたい」というお客様がまさにご来館くださることです。今までの商売では思った通りになることなどほとんどなかったので、嬉しい驚きでした。

 私はやりたいことをやり尽くす性分なので、「自分で泊まりたいと思える宿」にこだわり、部屋数を当初の計画より減らし、プールに暖炉、源泉を引いた大浴場、貸切り風呂も作りました。普通は運営側が要望を出し、オーナーがコスト面で制止するという構図になるのですが、逆ですね(笑)。

 また、オペレーションのあり方もお客様目線で考えています。チェックイン・チェックアウト時間の融通が利かなかったり、食事の時間を決めておかなければならないなどの、「お客様がお行儀良くしなければいけない」ルールは、多くの場合オペレーション側の都合です。海外のホテルでは良い意味でほったらかしで、必要なときに呼べばバトラーさんが来てくれる。それが究極の非日常ではないでしょうか。当ホテルでは、チェックインからコンシェルジュの呼び出し、部屋のスマートキーまで、全てお客様のスマートフォンで完結できるようにしています。非接触を実現しながら望まれればフルサービスで対応しており、お客様からは「非接触だからそっけないかと思ったら、全然そんなことはなかった」とお褒めの言葉をいただいています。

-経営上心掛けていることはありますか。

松原 宿泊業は稼働7割を目指すのがスタンダードと聞いていましたが、私は稼働4割程度でランニングコストを回収でき、更に数年後の再投資のための余力を作っていくスタンスを取っています。人員もこの稼働率に対応できれば十分です。経験があると「○○に○人必要」等の定説がよぎるかもしれませんが、私のようにゼロから始める場合は、固定費は極力減らすのが普通です。また人を雇うときも、「支配人ポストを探すなら経験者ですね」と言われましたが、私は候補者と相対しても、その人の支配人としての能力は分からないんです。今は従来型の役職は撤廃してニュートラルでフラットな採用を行い、資格試験や能力によって昇給する方法にしています。

 外国人雇用も多く、彼らを前面に出していきたいと考えています。彼らはモチベーションが高いですし、「自分はこのホテルが気に入って、ここでお客様にサービスをしたいと思って働いている。オーナーは誰でも構わない」と、オーナーの私に面と向かって言ってくれます(笑)。実際、彼らはサービスにご満足くださったお客様からかなりの頻度でチップをいただいています。

 また、私もフロントに立ってチェックイン・チェックアウト業務をしています。自ら名刺を持ってご挨拶もし、色々とお話を伺います。お客様がどう思っているか興味があるのは、経営者として当然のことだと思っています。

-運営方針の根底となるコンセプトはあるのでしょうか。

松原 当ホテルは「全員コンシェルジュ」という考えで、清掃も食事のサービスもマルチタスクです。掃除は大事です。きちんと掃除ができる人は、人間の一番見えづらい部分を見ている。それはお客様にどう接するかにも繋がってきます。

 また、館内で提供する料理は内製ではなく、外部のレストランと提携しています。料理はプロにお任せして、自分たちはオペレーションに集中できるからです。レストランとはプロフィットシェアで、飲食売上の一部がホテルの収益になります。食材管理もレストランが担っており、お客様がいない日は固定費ゼロです。一方、レストラン側のこだわりで、食事はホテルのために焼いてもらった有田焼で提供しています。

 主従関係で物事を決めると足し算・引き算で終わりがちですが、対等の立場で仕事をしたら「掛け算」という最大値の答えが出せました。珍しいかもしれませんが、これもこのホテルのあり方を体現するコラボレーションだと思います。

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