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アバター活用やウエディングも 人気水族館の新しい顔-沖縄美ら海水族館 管理部統括 佐藤圭一氏

  • 2022年1月7日

科学や教育を観光の新たな魅力に
地域振興や環境保全、海洋教育も担う

―新型コロナウイルスの業績への影響をお聞かせください。
適度な距離を保ちながら楽しむ観客

佐藤 経験したことのない甚大な影響がありました。これまでに計5回、休館と開館を繰り返しています。おそらく日本の水族館のなかで一番長く休んでいた施設ではないでしょうか。何より、沖縄観光として絶対に外せない繁忙期である夏休み期間が2年連続で休館となり、入館料を原資に運営していた水族館としてはかなりの赤字となりました。

 入館者も2020年時点で2019年比18%という状態で、全国の動物園や水族館のなかでも極端に低い数字になっていると思われます。休館すればある程度の維持費が削減できる施設もありますが、水族館の場合は生命を維持する装置を止めることも、またそれを管理する人間が休むこともできず、コストはかかり続けます。今は若干回復を感じており、2021年の前半と比べると賑やかになっていますが、もちろんインバウンドのお客様はゼロです。コロナ前はインバウンドが3割から4割を占めていたので、全体の回復率で見るとまだ半分以下の状態です。

―休館中に新たに取り組んだことはありますか。

佐藤 以前は色々な場所に出向いて観光キャンペーンのイベントに参加していましたが、この状況になりオンラインを活用しました。有料のオンラインプログラムを企画し、参加費に加えて応援代金などもいただきながら、多いときで週1回催行しました。また、ANAホールディングス発のアバター「newme(ニューミー)」を活用した遠隔見学会なども実施しています。

バックヤードツアーでは、水槽を上部から見学することができる

 現在(2021年12月)、まだそこまで混雑していないので、以前から温めてきたアイデアも試験的に実施しています。例えばグループ単位で実施するバックヤードツアー。約1時間かけて水族館の裏側をめぐるもので、ワクチン接種を条件としてグループの人数も最大5名に制限しています。1日4回(2021年12月現在)の各回1組限定、1組5000円で参加可能です。案内する職員が変わるため、「別のスタッフの案内も体験してみたい」とリピーターになってくれる方もいらっしゃいます。

 最近告知したのはブライダルに関する取り組みです。こちらも要望はあったものの応える余力がなかったのですが、今は営業時間を短縮しているため、その時間を活用して、館内の特定エリアをフォトウエディングや婚礼の会場として貸し出しています。沖縄ウエディングの弱点であった天候を克服できるのも魅力です。

 そのほか、入院中の子どもたちがコロナ感染防止のため両親ともなかなか会えない環境で、治療に向き合う気持ちを失ってしまっているという話を職員が聞き、病院向けのオンライン水族館紹介も始めました。全国の病院を対象に、2020年は41回、今年度はその倍以上の頻度で、ほぼ毎日実施しています。子どもたちのためにも社会との繋がりを保つためにも有意義な取り組みだと思っています。オンライン水族館を見た子どもたちが、その後実際に来館してくれたこともあります。

―様々な取り組みをされていますが、コロナ禍で変わったことはありますか。

佐藤 以前は来館者が非常に多く、いかにスムーズに館内を見てもらうかに力を入れていましたが、今は「もっと深く詳しく水族館を楽しみたい」という方に対して何ができるかという考え方をしています。提供する内容の質を向上させ、あらゆる層の需要に応えられるように取り組むことが、結果的に来館者1人当たりの単価向上にも繋がっています。

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