「のぼせもん」が見る伝統産業の課題と選択-有田焼しん窯8代目当主 梶原茂弘氏、伝統工芸士 橋口博之氏
作り手と買い手の距離を縮めて「行ってみたい町」へ
これからは個々の窯にこだわらないチームが必要
梶原 ウィズコロナでもアフターコロナでも作り手と買い手との距離を縮め、「有田を訪ねたい・行ってみたい」戦略をいかに練るか。これは有田町全町をあげて取り組む喫緊の課題であると考えています。
橋口 陶器市のような機会ももちろんですが、クラフトツーリズムがより広がることを期待しています。「より文化的に、良い品を取り入れた丁寧な生活を」という考えが広がりつつありますが、そのように考える方々に選ばれるには、作り手である自分たちの姿勢がより問われる時代になっていると感じます。自分たちの人としての器を広げた分だけ、素敵なお客様と出会えるチャンスが広がると思っています。
梶原 大量生産の反対、「モノよりコト」を意識するということですね。青花ブランドは「普段使いの暮らしの器」をコンセプトにしていますが、結果的に作り手である橋口の人柄や手作り職人集団であるしん窯の情景に心を寄せていただき、質や作り手を重視するクライアント様から営業用食器として採用されているケースもあります。焼き物の周辺にある文化を大切にするような価値観の方が「人生で必ず1回は有田に行く」というようになれば、有田の未来も広がるのではと思います。
梶原 有田焼は国内を見据えて成長してきた産業です。ですが、今後は海外市場への展開が必須だと感じています。また、成長しているふるさと納税などへの積極的な参画などが急がれています。
海外市場に関しては、どこの国をターゲットにするかではなく、精神面も含めた豊かな方々とどのように心を通い合わせるかが肝要だと考えています。有田焼に繋がる焼き物文化の伝承元であり、それぞれで焼き物文化が醸成されている中国や韓国の方が相手でも、スタンスに変わりはないと考えています。
橋口 同じ有田焼でも高台や絵柄を無くす等の「世界基準」の暮らしの使いやすさを追求しておられる会社もあります。世界各地に代理店を作り、しっかりとしたブランディングをされています。しん窯としては手描き一筋ですので、オーダーメイド制に近いスキマ産業を担っていくつもりです。
梶原 しん窯としても「普段使いの暮らしの器」から「普段使いの『良い器』」へブランドを再構築して、付加価値をしっかり作り上げ、質も価格も底上げをしていく必要があると考えています。
橋口 値上げについては作り手としては非常に勇気が要ります。自分の力量にふさわしい価格であるか常に自問自答しつつ、周囲にも相談しつつ検討している課題でもあります。
梶原 そのためには多品種少量生産を目指し、個々の商品価値や品格を高めることが必要だと考えています。ある意味、規模を小さくしなければいけない。業界として400年の歴史や伝統を伝えつつ、個々の窯はできるだけ少人数運営に徹し、当面は辛抱しながら付加価値経営に徹するべきと考えています。
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